AIによるフィルタリングとレコメンドは社会をどう変えるか

インターネットの普及により消費行動が多様化し、マスマーケティングに変わる手法としてパーソナライズが注目されるようになりました。今後、AIレコメンド機能の進歩によりこのパーソナライズの傾向がより一層強まっていく事が推測されますが、一方で、自分に都合のいい情報しか表示されなくなるという弊害も心配されています。過剰な「フィルターバブル」は私たちの社会をどのように変えて行くのでしょうか?

 

目次
(1)「マス」から「パーソナライズ」へ
(2)  AIによるリコメンド機能がパーソナライズを加速させる
(3)適合過剰が引き起こす弊害.
(4) フィルターバブルによるアメリカの分断
(5)情報過多時代のメディアのあり方
(6)設計側のモラル

 

「マス」から「パーソナライズ」へ

かつてインターネットが登場する以前、人々はマスメディアの発信する記号を消費するしかありませんでした。
マスメディアは我々に変わって現実を構築し、共通認識を生み出し、それは単なる伝達手段ではなく、一種の社会のシステムとして稼働し、上手く国民をコントロールしていました。

60年代〜70年代の高度成長期に生まれた「一億総中流」という幻想と結びついて、皆、均一化された日本人像を消費し、誰もが「未来には今よりも豊かな生活が待っている」と信じていました。
マスメディアが中流というある種の“フィクションを”流行らせる装置として機能し、多くの人々が上昇志向を持つことができたというわけす。この状況は大量生産と大量消費の時代には好都合でした。

ところが、90年代にインターネットが出現し、初めて自分に適した情報を得ることが技術的に可能になりました。それがマスメディア中心の記号消費を崩壊させる要因になり、また、格差社会化の劇的な進行もあって、「みんな」との一体感やマスという幻想が打ち砕かれました。電気の素早さが、官僚主義的、中央集権型による情報伝達を上回り、個人に力が分散されるようになったのです。

現在のネット社会においては、情報の量が爆発的に増加し、個人それぞれが消費したい情報を選んで消費する「個人化」の時代を迎えていると言えます。もはや傾向を分類するのが難しいほど人々の価値観は多様化しています。

AIによるリコメンド機能がパーソナライズを加速させる

いまやインターネットに接続するだけで本当に簡単にいつでもどこでも誰もが『万物のライブラリー』を手元に呼び起こす事が出きます。

しかし、情報過多な時代が必ずしも人々を幸せにするとは限りません。

著書「選択の科学」で有名なコロンビア大学のシーナ・アイエンガー教授は、「人間は選択肢が多過ぎるとストレスになり、重要な場面だけでなく、日常的な場面においても、選択を制限されている人たちの方が満足度が高い」という興味深い研究結果を発表しています。

今後私たちが最も必要になるのはフィルタリングやパーソナライズの新しい方法です。
現在、インターネットの世界で情報選択のアシストをするフィルターの代表は「レコメンド・エンジン」ですが、上記のような情報過多時代における新たなニーズに対応するために、各社は自社でAIを使ったレコメンドやフィルタリング機能を導入する動きが強まっています。例えば、最近では、ユーザーの感性やセンスを学習してレコメンドさせるAIの登場や、「TSUTAYA SAI」のようにツイッターの投稿文章を分析しユーザーの趣向嗜好に沿った映画作品を提案するレコメンドサービスなどが話題となりました。

 

大きな万物のライブラリーは、狭く限られたわれわれの消費習慣をはるかに凌駕していく。こうした広野を旅するには道案内が必要だ」 ケヴィン・ケリーの著作『〈インターネット〉の次に来るもの』

 

 

適合過剰が引き起こす弊害

 

 

このように様々なプラットフォームやニュースサイトが情報をパーソナル化のフィルターにかける動きが近年強まっています。
ユーザーはより自身に個別化された情報により接することになりますが、それらがもたらすのはいい影響だけではありません。

イーライ・パリザーによるTEDでのプレゼン、危険なインターネット上の「フィルターに囲まれた世界」では、「フィルターバブル」という言葉が紹介されています。

「フィルターバブル」とは、行き過ぎたネット上のレコメンド技術≒フィルター技術を指す言葉です。

このリスクとして、フィルターは良いものも切り捨てる可能性があること、フィルターによる過剰適合で「新しいアイデアとの出会い」が阻害され、心地の良い情報しか表示されなくなり、認知できる領域が狭まり、自分自身の情報皮膜の中で知的孤立に陥る可能性が危惧されています。また政治信条や政治への関心度によって、特定の思想や事件が検索結果に現れなくなるという実例も示されてます。

 

インターネットの検索サイトは、各ユーザーを識別する仕組みを用いて、各ユーザーの所在地、過去のクリック履歴、検索履歴などと言った、プライベートな情報を把握している。そして、各ユーザーのプライベートな情報を、それぞれの検索サイトのアルゴリズムに基づいて解析し、そのユーザーが見たいだろうと思われる情報を選択的に推定して、ユーザーが見たくないだろうと思われる情報を遮断している(この仕組みをフィルタリングと言う)。そして、各ユーザーごとに最適化された、各ユーザーが見たいだろうと思われる検索結果のみを返している(この仕組みをパーソナライズ、またはパーソナライゼーションと言う)。GoogleやFacebookなど、ほとんどのwebサイトでは標準で導入されており、同じ「インターネット」を見ているつもりでも、人々が実際に見ているのはこのように「フィルター」を介してパーソナライズされた世界である。これが加速していくと最終的には、自分の見たい情報(実際は、検索サイトのアルゴリズムがそう判断した情報)以外をインターネットで見ることが出来なくなる。そして、自分の観点に合わない情報から隔離され、同じ意見を持つ人々同士で群れ集まるようになり、それぞれの集団ごとで文化的・思想的な皮膜(バブル)の中に孤立するようになっていく。この現象を「フィルターバブル」と言う。

 

フィルターバブルによるアメリカの分断

 

たとえば前回のアメリカ大統領選でもその傾向が強く見られました。
選挙によりアメリカ国内でのリベラルと保守との分断が一層強くなったことが明らかになりましたが、リラベル側である主要メディア(テレビ局や、ニューヨーク・タイムズ紙)は誰もトランプの勝利を予測していませんでした。

この問題を研究してきたペンシルバニア大学准教授のマシュー・レバンドスキ氏(政治学)は、影響は限定的だとしつつ、メディアの分極化が国民を分極化させている一因だと指摘する。「人々は自分がもともと持っている考え方を強化するようなメディアを選択する。共和党支持者はFOX、リベラルな層はMSNBCを視聴する傾向にある」。と述べていました。

ウォーストリート・ジャーナルは、その両者をテーマごとに比較したページを公開。”フィルターバブル”の根深さを浮かび上がらせている。blockquote>米調査機関、ピュー・リサーチ・センターは、大統領選直後、有権者が主な情報源としたメディアがどこなのか調査し、最も多かったのはケーブル放送のFOXニュースだった。全投票者の19%を占め、そのほとんどはトランプ氏に投票していた。FOXニュースは1996年、メディア王ルパート・マードック氏が会長のニューズ・コーポレーションが設立。2003年のイラク戦争のときには愛国主義的な放送で大幅に視聴率を伸ばした。「公平公正」をモットーとして掲げつつ、実際には保守系のコメンテーターが多く、現在もトランプ政権寄りの放送で知られる。

 

政治とは本来、違った考えの層をまとめ、妥協点を探りながら進めていくもので、こうした世論やメディアの分断は、政治における妥協を難しくし、本質的には好ましいものではありません。
マスメディアは民主主義の基盤として重要な役割を果たしていて、実は多くの人たちに対しておなじコンテンツを見てもらうのも必要なのです。

情報過多時代のメディアのあり方

欧州ではここ数年こういった「フィルターバブル」を破ろうという試みが活発になりつつあります。
リベラル系の英紙ガーディアンは、「フィルターバブルを破れ」というコーナーを新設し、読者に対して、保守派の論調の紹介を始めました。その読者の政治的思考傾向とは反対の論調も紹介する動きです。

Alphabet傘下のジグソーは昨年、googleニュースのデータをもとに、ユーザーの登録国以外でのニュースを積極的に流す「アンフィルタード・ニュース」を公開し自国の”ニュース・フィルター”を外してみせる取り組みを行っています。
ブラウザの拡張機能を使い、自分とは違う意見や思想をフェイスブックやツイッターのタイムラインに割り込ませる、といった試みもあります。この他にも、ニュースフィードの政治的傾向診断など、様々なツールが登場しています。

設計側のモラル

ここで問われるものは、レコメンドエンジン設計側のモラルとなります。イーライが危惧する通り、もしフィルタリングする側が偏った意思を持ってどの情報を表示するかを操ったとしたら、その情報を受け取った個人の価値観や思想を、ある程度左右することが可能となってしまいます。

マスメディアという装置で大勢に同じ情報を流して国民を統制するというのが難しくなりつつある今、今後テクノロジーとしてしっかりやらなければならないのは、AIによる最適化で一人一人のコンテクストに合わせながら、一人一人に合わせて興味・関心を広げていくことなのではないでしょうか?


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