顔には性的指向が潜んでいる・・・性的指向を見分けるAIが物議を醸す

AIは顔から人間の性格や性的嗜好を見分けるーー
猛スピードで“進化”をつづける「人工知能(AI)」ですが、スタンフォード大学(アメリカ)の研究チームは人工知能を使って人間の顔写真データを分析することで「同性愛者かストレートか」を高精度で見破ることができるという研究結果を発表しました。この発表は世界的な物議を醸しています。

スタンフォード大学らの研究 によると、コンピュータアルゴリズムが同性愛者とストレートかどうかを、男性を81%、女性の74%の精度で正しく識別できることが分かりました。 本研究は、顔検出技術の倫理について疑問を投げかけました。この種のソフトウェアが人々のプライバシーを侵害したり、反LGBT目的で悪用される可能性もあり得るからです。

「いいね!」で性格がばれる

元々、この研究の中心人物とされるコジンスキは、“人々のデータが悪用されかねない現実”に警鐘を鳴らすことで、キャリアを築いてきた人物です。彼は2013年に心理学の博士号の取得を目指し、ある性格診断テストを作成しようとしていましたが、その後、フェイスブックによって性格診断テストは不要になるだろうという考えに至りました。つまり、わざわざ好きなものなどを尋ねる必要はなく、その人が何に「いいね!」しているかを確認すれば、その人の性格が明らかになるという見立てです。そして彼らはついに2014年、あるユーザーが押した200件の「いいね!」を調べることで、「本人の性格診断テストの回答を恋人よりも正確に予測できる」という驚きの研究結果を発表しました。

 

顔からクラスタを抽出

その後、博士号を取得したコジンスキは、米スタンフォード大学経営大学院で教えるようになり、新たな調査対象となるデータを探しはじめました。そこで頭に浮かんだのが「顔」でした。

もう何十年ものあいだ、心理学者たちは人間の性格と身体的な特徴を関連づけることに慎重でした。骨相学と優生学という“忌まわしき記憶”を拭えず、タブー視されていたためです。

だが、そのタブーを根本から疑うことで、何かが明らかになるかもしれないとコジンスキは考えました。

まず彼は、マッチングサイトに集まった35000枚以上の顔画像データを利用し、それからそのデータを、英オックスフォード大学の研究者が作った「ディープニューラルネットワーク(DNN)」による顔認識アルゴリズムに流し込みました。そしてその画像から特徴を抽出し、顔写真とプロフィール情報のあいだに相関関係があるかどうかを調べました。

同AIソリューションには、敵対性学習というディープラーニングの手法が使われていて「顔を識別するAI」と「顔認識処理を妨害するAI」が、互いに対立・競争し、学習が深化する仕組みです。その手法によってプライバシーを保護を目的とした顔の画像にのせることができる「インスタグラム型フィルタ」を開発しました。

同フィルタを用いると、アルゴリズムが画像の特定ピクセルを変更し、人間の目ではほとんど検出できない微細な変化を作りだしてくれます。

当初、たいした発見はないと見られていましたが、性的指向に着目してみたところ、目を疑うような結果が出たと言います。

今までの研究に置いて顔写真を元に人間が性的指向を言い当てられる確率は、最高60%程度でした。しかし、なんとDNNは男性については91%、女性についても83%という高確率で、それぞれ同性愛者かどうかを区別することができたのです。女性の方が成功率が低いのは、女性の性的指向がより流動的であるからではないかと考えられています。

論文に掲載された、「合成した『ストレート』顔」(左2列)と「合成した『ゲイ』顔」(右2列)。

同性愛者の男性と女性は、「性別非定型」の特徴、表現、および「グルーミングスタイル」を持つ傾向があることがわかりました。これは、本質的に同性愛者の男性がより女性らしく見えることを意味します。また、同性愛者の男性は、ストレートの男性よりも顎の幅が狭く、鼻の長さが大きく、額の幅が広いことや、同性愛者の女性がストレートの女性と比べて顎の大きさが大きく前額が小さいことなどの傾向がありました。

人間が判断した場合は、アルゴリズムよりもはるかに悪いパフォーマンスを示し、男性61%、女性54%という結果になりました。

研究チームは、「顔には、人間の脳によって知覚され解釈される以上に、性的指向に関するより多くの情報が含まれている」と、一連の研究の成果について説明し、更に以下のように言及しました。

「多くの人がこの情報を公開すべきだったのか?という疑問を持つでしょう。私たちの考えも同じです。かし、ある政府や企業は、顔を認識して好みのものを推測をする技術の開発を、すでに進めているのです。ゲイコミュニティをはじめ、私たちはプライバシーが侵害されるリスクを把握し、今すぐにでも法的な規制を設けるべきなのです

コジンスキの発見は、過去に手がけた研究と同様に、デジタル時代におけるプライバシーと差別の問題について、一石を投じるものです。

コンピュータは、いったい何を見ていたのか──?

しかし、この研究には一つ疑問が残りました。それはコンピュータは、どうやってこの結果を出したのか?という事です。ヒトの目には見えない何かを見ていたのか──?この謎を解こうとしても、コジンスキ自身、なかなか手がかりすら見つけられませんでした。

一般的に女性は男性より額が大きく、顎が細く、鼻が長いことはよく知られている。そこで、最も高確度で性的指向を判定された顔写真100点を抽出し、顔のパーツの比率を計算して見た。するとゲイの男性の顔は平均して“女性的”な比率に近いことがわかり、レズビアンの女性についてはその逆であることがわかった。もしこの結果が正しいとすれば、顔の違いを生み出す男性ホルモンのテストステロンが性的指向にも関係する、という説の裏づけとなるかもしれない。しかし、結局今回の実験から、確実な事は何も言えないだろう。

アルゴリズムは人間には認識すらできない何らかの要素を、顔写真から拾っているのかもしれません。
その目は、いったい何を見ていたのでしょうか──?