機械学習の起源であるパーセプトロンを量子コンピュータで実装

イタリアのパヴィア大学の研究チームは、IBMの5キュービットの量子プロセッサー上にパーセプトロンを実装し、単純なパターンの初歩的な分類ができることを確認できたと発表しました。その後、すぐにIBMは16キュービットの量子プロセッサーをWeb上で公開しており、量子パーセプトロンの性能が飛躍的に向上するのは時間の問題だと考えられています。

パーセプトロンとは?

1958年Aeronautical Laboratoryでローゼンブラッドという心理学者によって発明された装置を発表するための記者会見が開催されました。ローゼンブラットは自らが考案した装置をパーセプトロンと呼び、ニューヨークタイムズ紙は「歩くこと、話すこと、見ること、書くこと、自分自身を再現すること、そして自身の存在を意識することが可能になると期待できる電子コンピュータの萌芽である」と大々的に報じました。

その後、それらの主張はやや誇張されていたことがわかりましたが、近年、注目を集めている深層学習ネットワークはパーセプトロンが起源となっており、パーセプトロンの流れを引き継ぐさまざまな研究には現在も大きな期待が寄せられています。

パーセプトロンは、人工ニューロンやニューラルネットワークの一種で、視覚と脳の機能をモデル化したものであり、パターン認識を行う。シンプルなネットワークでありながら学習能力を持つ。1960年代に爆発的なニューラルネットブームを巻き起こしたが、1969年に人工知能学者マービン・ミンスキーらによって線形分離可能なものしか学習できないことが指摘されたことによって下火となった。近年他の研究者によってさまざまな変種が考案されており、再び注目を集めた。現在でも広く使われている機械学習アルゴリズムの基礎となっている。

機械学習×量子コンピューター

現在、「量子コンピューティング」という新たな情報処理革命が進んでいますが、ここで、興味深い問いが浮かびます。「量子コンピューターにパーセプトロンを実装することは可能なのだろうか?可能であれば、どの程度の性能を実現できるだろうか?」

その答えとなり得るものを今回イタリア、パヴィア大学のフランセスコ・タッキーノの研究チームが導き出しました。

この研究は量子コンピューターにより適したパーセプトロンモデルを開発し、単純な画像処理タスクで性能を試すというものです。

https://www.technologyreview.com/s/612435/machine-learning-meet-quantum-computing/

 

パーセプトロンは、範囲が限定された最も単純な機械学習アルゴリズムの1つであり、本質的には単一層ニューラルネットワークであります。複数の入力に対して1つ出力する関数で、出力は1か0の2値です。出力がしきい値を満たしている場合は、「1」になりますし、それ以外の場合は0になります。1を出力した場合「ニューロンが発火する」と表現したりします。

このアルゴリズムにはさまざまな応用方法が考えられます。たとえば、特定パターンを画像化するとき、各ピクセルの光度に対応するピクセル配列があると仮定し、このピクセル配列をパーセプトロンに入力すると、1あるいは0が出力されます。重み配列としきい値を調整すれば、例えば、猫が見える時は1 を出力し、そうでなければ0を出力するようできます。

この実験を可能にしたのは、IBMの量子コンピューター向け超伝導プロセッサーQ-5「 Tenerife」です。(※Q-5は5量子ビットの量子コンピューターで、量子アルゴリズムを作成できる人なら誰でもWeb上でプログラミングする事ができます。)

タッキーノ研究チームはIBMのQ-5プロセッサーを利用し、「キュービット数が少ないQ-5プロセッサーではN = 2の場合を扱えるが、これは2×2の白黒画像に相当する。この画像は縦線または横線、格子柄を含むか?」という問題を出しました。その結果、量子パーセプトロンは、実験に使われた単純な画像のパターンを容易に分類できることが分かりました。

このように量子コンピューティングの大きな利点は、処理できる次元数を指数関数的に増やすことができるということです。従来のパーセプトロンでもN 次元の入力を処理できますが、 量子パーセプトロンは2 N次元を処理する事が可能となります。

今後の展望

ローゼンブラッドは、単層パーセプトロンは直線のような単純な画像しか分類できないことを見い出しました。しかし、すぐに他の科学者たちにより、パーセプトロンをレイヤーに組み合わせることの方が可能性を拡大できることが発見されました。その後、さまざまな改良や微調整が加えられ、人間と同等の能力でオブジェクトや顔を認識できるようになり、チェスや囲碁のチャンピオンを打ち負かす機械まで生まれました。

タッキーノ研究チームの量子パーセプトロンも同様に発展の初期段階にあり、今後の目標は、グレースケール画像と同等のものを符号化し、量子パーセプトロンを多層ネットワークに組み合わせることにあります。

もちろん、チームが研究を進めるためには、高性能の量子プロセッサーが利用できるようになる必要がありますが、量子パーセプトロンの性能が飛躍的に向上するのは時間の問題と考えられています。
実際、タッキーノ研究チームが今回の研究をした後、IBMはすでに16キュービットの量子プロセッサーをWeb上で利用できるようにしています。高性能量子プロセッサーが実現する日も近いのではないでしょうか?