死因究明における画像診断の活用 。AIが人の心を救うかもしれない

死因を探るための司法解剖。真相究明のためとはいえ遺体を傷つけ、遺族を追い込んでしまうこともあります。今回紹介するのは、そんな司法解剖のかわりにCTを撮影し画像診断により判別するという論文。AI により非侵襲な死因観測が可能になり遺族の心を救う事ができるかもしれません。

論文:https://www.jstage.jst.go.jp/article/shes/16/1/16_25/_article/-char/ja/

現在の司法解剖における問題点

『司法解剖』皆さんも聞いたことがある言葉だと思います。犯罪捜査やその過程における死因特定のために、犯罪性があると認定された遺体を解剖することです。最近ではドラマ”アンナチュラル”の影響で一気に認知度が上がりました

司法解剖は、治安の維持や凶悪な犯人を突き止め罰を与えるために必要な行為ですが、遺体にメスを入れるということであり、否応なしに遺体に傷を残します。しかも、ケースによっては遺族の承諾を必要としない強制力を持っています。

剃髪された頭部や、生前の面影を失った顔つき、縫合跡などは司法解剖を経た遺体と対面する遺族にとって大きな心の傷を残す事となり、遺族のPTSD(精神的外傷)の原因になるとも言われています。「無残に生命を奪われて、なお身体を傷つけられるなど絶対に受け入れられない」という遺族の心情は手記やルポタージュにもたびたび綴られています。

上記のような理由から、遺族は司法解剖に対して拒否感を抱いたり、故人とすごす残り少ない時間が失われたと感じたりすることが分かっています。また、遺体の運送費用が遺族負担であることとや、説明が不十分であること、コストがかかりすぎること、なども問題だとあげられています。

このように、遺族の心を傷つける問題にも関わらず、社会としての必要性に迫られて行われる司法解剖。AIによってこれらの問題点を解決しようというのが今回の論文です。

解決策としての画像診断

解決策として考えられているのは、CTを撮影し画像認識を使って読み取り判別するということです。

これにより、従来の「検視→解剖」という二段階構造から、「検視→CT→解剖」という三段階の構造に死因究明の方法が変容しつつあり、CTで本当に司法解剖を行うべきか否かのスクリーニングが可能になります。

実は、以前もCT画像から読撮しようという試み自体はありましたが、死後CTの画像を読影することが難しく、読影が可能な人材も少ないため実用には至りませんでした。しかし、AIを用いることにより、CT画像の読影を行うことでこの人員の問題を解決することが可能になりました。

もしCT画像の検査を経て、解剖するという結論に至ったとしてもCT検査を行った上でなら、遺族としても司法解剖への納得度が向上することが見込まれます。また、CTは解剖に比べて1/5ほどのコストで済むこともあり、不必要な解剖を抑えることはコストの削減にもつながるため画像診断の積極的活用が提言されています。

活用に対する現在の状況とハードル

実は、捜査現場でははやくから死後 CT が要請され(海堂,2008)警察庁では 2007 年から CT 予算を措置してきました。しかし導入は局所にとどまり、また死因究明制度が抜本的に見直されるには至りませんでした。

その後、CT を介在させることで人員と予算の問題をクリアしつつ、これまでならば検視で見逃されていた犯罪死が発見されやすくなるとの気運が再び高まり、2011 年には警察庁で、2014 年には死因究明等推進計画のなかで、AIを積極的に活用していくことが提言されています

しかし、法や制度が追いついていない点では、やはり活用に対して現在もハードルがあるといえるでしょう。AIの話をはじめとしてドローンや自動運転などの先進的な技術にはこの議論がつきものですが、デリケートで慎重に制度の変更を行う必要がある分野ほど法整備や制度変更が遅れます。  

遺族に対するメリットが大きい以上、早急に法や制度の整備が求められています。

まとめ

今まで死因の究明には、遺族の心を無視した強制的な司法解剖しか方法ありませんでした。しかし、現在、AIの導入により画像診断を行えるCT画像の枚数が増加。司法解剖の前にCTで司法解剖の必要性についてスクリーニングを行うことで、無駄に遺体を傷つけることがなくなりました。

今回のようなケースは、AIが人を癒す典型的な例だったと言えます。技術の進歩は素晴らしいですが、技術の使い方でより、その技術が輝くのではないでしょうか?制度が追いつけば、よりAIと人の心地よい関係が築いていけるかもしれません。