記事をAIで「中立」に書き換えるメディアが登場、テック・ジャーナリズムの行方とは?

AIよるフェイクニュースやフィルターバブル、世論操作、米国のメディア界では今大きな地殻変動が起きています。メディアのトレンドを考える中で今後最重要なのは、AI(人工知能)が与えるインパクトでしょう。米国では、機械学習で読者の感情を予測するだけではなく、色々な思想やバイアスが含まれている記事の表現方法自体を、機械学習で中立にして報道するニュースサイトも登場しました。

米国のメディア界では今大きな地殻変動が起きています。既存のメディアを追い上げるネットフリックス、アマゾンのネット配信。さらにデジタル広告費がテレビ広告費を追い抜く中で、壁として立ちはだかるのはグーグルとフェイスブックの複占体制。大手メディアはよりスケールを、そしてスケールの壁にぶち当たったメディアは身売りか退場を余儀なくされています。

さらには、スマートフォンやソーシャルメディアの普及によってマスコミのビジネスや流通モデルが崩れニュースのあり方が大きく変わったように、現在AIなどの技術革新によって第2のニュース産業革命が起ころうとしています。

「報道の機械化」は、本物かどうか見分けがつかないAIを使ったディ-プフェイク(Deep Fake)やフィルターバブル、世論操作などの問題を産み、テクノロジーによる過度なパーソナライズがアメリカ分断の問題を深淵にするのではないかと危惧されています。特にトランプ氏が2015年に米国の大統領選挙に出馬表明した頃からメディアと政治をめぐる状況が一変しました。

記事の表現をAIで「中立」に書き換えるWebメディアが登場

そんな中その流れに対抗する局面も出てきました――。

現在のアメリカでは、メディアもリベラルと保守、中間と色々な立場があり、同じ内容でもニュースの扱い方、視点、表現方法が違ってきますが、アメリカの小さなスタートアップである「Knowhere News」というサイトは、AIを使って「バイアス表現をなくす」という取り組みをしています。

ニュースをキュレーションしてきて、それぞれのニュースを右翼、公平、左翼、またはポジティブ、公平、とネガティブの3つに分類して評価し、そこから、公平になるようにコンテンツをAIにより最短60秒で書き直して、最終的には公開する前に編集者がチェックをするという仕組みです。

例えば、極端な例で言えば、CNNでは「トランプはキム・ジョンウンの面会の申し出に踊らされている」と報道され、Voxでは同じニュースを「トランプの取引において北朝鮮との面会は最高のテストになる」と報道されていたところを、KnowhereのAIでは「トランプ大統領が北朝鮮のリーダーとの歴史的面会に合意した」と書き直す、というイメージです。

以下はKnowhere Newsの公式サイトで紹介されているものです。https://knowherenews.com/how

AIによるジャーナリズム

現在、多くの米メディアは、広告収入の減少、デジタルコストの上昇といった問題を抱えきれなくなり、デジタル化の先にあるAI導入を進めざるを得なくなりました。

調査によると、米国メディアの約40%は、記事生成において、何らかの自動化ツールを利用している状態です。たとえば、アメリカの大手通信社であるAP通信は、ジャーナリズム分野におけるAI活用のトップランナーで、 2013にWordsmithというソフトウエアを導入し、2014年時点ではすでに四半期ごとに3000件もの企業の決算報告を作成しています。Wordsmithを活用することによって、1週間に何百万、1秒間では2000以上の記事を作成する事が可能で、現在では4400社にのぼる決算短信を自動化することによって記者の作業時間を2割短縮できるようになりました。

しかし最近では、AIは、記事の自動作成などの作業の省力化に活用されるだけではなく、ジャーナリズムの視野を広げるツールとして使用されるようになりました。ネットメディア「クオーツ」でAIの開発を手がける「ボットスタジオ」の開発者、ジョン・キーフ氏はこう述べます。

この数年、AIとジャーナリズムをめぐる議論は、AIが導入されて記者と置き換わるという不安の中に入り込んでいた。だが新しい年には、記者がAIを使ったビッグニュースのスクープがどれだけあるか、という話をする機会が増えるだろう。

特にAIとジャーナリズムにおいて昨今、話題となったのは、ピュリツアー賞候補にもなったアトランタ・ジャーナル・コンスティテューション(AJC)のAIによる調査報道「医師と性的虐待」でしょう。

http://doctors.ajc.com/still_forgiven/?ecmp=doctorssexabuse_microsite_nav

同紙のチームは、地元ジョージア州での医師による性的虐待事件を取材するうちに、以前にも処分を受けながら同様の行為を繰り返し行っていた医師の事例をいくつか把握し、しかも、驚くことに、そのような事案を追跡調査する仕組みがないことがわかりました。

そこで、取材チームは取材範囲を全米に広げ、医師に対する処分が公表されいてる州医療懲罰委員会などサイトついて、50種類にぼるスクレーピング(データ自動収集)のプログラムを用意し、10万件を超す資料を入手し、AIにそのデータを学習させることによって、この10万件の中から、1999年から2015年の間に性的不正行為で処分された3,100人以上の医者を抜き出しました。そのうち患者への性的不正行為による2400人の医師を特定することに成功したとの事です。

また、米調査報道NPO「プロパブリカ」のジェレミー・メリル氏は、連邦議会議員の「関心テーマ」の洗い出しをAIによって調査しました。
https://www.propublica.org/nerds/teaching-a-machine-what-congress-cares-about

毎年1000万ドルの寄付をもとに調査報道をおこなうNPOメディア「ProPublica(プロパブリカ)」は2010年にオンラインメディアとして初となるピューリッツァー賞を受賞し、翌年も同賞を受賞するなど、非営利メディアというだけでなく、オンラインメディアの存在感という意味でも重要な立ち位置のメディアです

メリル氏は、連邦議会議員が2015年以降に公開した数十万件のプレスリリース文をAIの機械学習で読み込ませました。
それによって、議員が残りの部分をどのように使用するかを抽出するコンピュータモデルを訓練し、それぞれテーマに関する各議員の立ち位置の違いを100段階で分類するという取り組みを行いました。

この結果から、各議員が最も興味関心を寄せている政策テーマや政治的思想、またあるテーマに関する議員同士の関係性や立ち位置、といった相関関係がすぐに引き出せたといいます。

🔹AIがツイッターを自動検知

こうしたAIにおける技術は、日本の報道現場でも少しずつ活用され初めています。
ニュースのキュレーションサービスを提供する「JX通信社」は自社に記者を置かずネットからの情報収集に特化した仮想通信社です。

同社は、2016年にSNSから、国内外の事件・事故情報やニュースを検知する「FASTALERT」をリリースしました。この「FASTALERT」はAIがSNSでつぶやかれた緊急情報を検知し、いつどこで何が起こったのかをまとめて報道機関に通知するというものです。例えば、「横浜駅で非常停止ブザー的みたいなものが鳴って帰れなくなっている」「線路に人倒れてる」といったツイッターのつぶやきが複数あれば、そこから「神奈川県横浜市で鉄道トラブル」と判定。最終的にはこうしたつぶやきから自動で草稿をアウトプットできるようにするのが目標です。このサービスは、現在、NHKと全ての民放キーが導入しています。

マシン・トゥ・マシン(M2M)の概念

AP通信のAI担当、フレンチェスコ・マルコーニ氏は、これらの「データ AI 記事」の流れの先にある「データ AIxAI 記事」という高度化のシナリオを示し、AIによるジャーナリズムの変化を、こう見通します。

マシン・トゥ・マシン・ジャーナリズムでは、一つのマシンから出力されたコンテンツ(ストーリーにしろ、その他のニュースコンテンツにしろ)は、第2のマシンでさらに変換されて、最終的に読者に届くことになる。

例えば、一つのマシンがデータからストーリーをつくり出し、それを第2のマシンに送ると、そこではそのストーリーをパーソナライズした上で、たった一人のためだけに配信する。といったもので、複数のAIが連携することで、AI同士が”会話”し、読者の趣味、嗜好、気分、タイミングなどのデータを加味した上で、最適な形の「スマートコンテンツ」を、無限のバリエーションとして出力していく、という仕組です。

その連携のインパクトはさらに広がります。

自動生成された株式に関する経済ニュースが、別のマシンの投資パターンを変化させる可能性もあるだろう。またAI弁護士が、自動生成された記事について、異なる裁判管轄ごとに名誉毀損とされる可能性を評価する、ということもありうるだろう。

テック・ジャーナリズム の行方

輪転機の登場以来、メディアの歴史はテクノロジーのイノベーションとともに変化し、ニュース制作そのものを変えてきました。ニュースをフィルタリングするアルゴリズムや、ジャーナリズムの記事を書くことができるロボット、いかなる投稿も自動的に翻訳できるマシン、怒りや不安をあおるようなフェイクニュース‥それらが氾濫するメディア環境の中で、AIとよどみなく会話ができるかどうかは、今後ジャーナリストにとって最重要課題となるでしょう。

ニュースの未来を理解するには、これから数年間、多くの業界、研究分野の未来を注視する必要がある。ジャーナリストが未来を考える時、視野を広げ、その知識経済には、他分野からも無数の新規参入がある、ということも考慮しておくべきだ。テクノロジーは、さらなるテクノロジーを触発する。我々は、その爆発をスローモーションで目撃しているところだ。

 

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