機械学習×ダイエット。血糖反応の予測によるダイエット最適化

PPGR(食後血糖反応)の上昇は、肥満、流行病、糖尿病に関わる主要な危険因子を構成します。その重要性にもかかわらず、PPGRを予測するための正確な方法は存在せず、また、PPGRを制御するための既存の食事方法は限られた有効性しか示していません。そこで、本論文では、多次元データを統合し、個別化されたPPGRを正確に予測する機械学習アルゴリズムを考案しました。

論文,Personalized Nutrition by Prediction of Glycemic Responses

PPGR(食後血糖反応)とは?

食後2時間の血糖の積分値を、PPGR(食後血糖応答)と呼びます。PPGRの上昇は、肥満、流行病、糖尿病に関わる主要な危険因子を構成していますが、その重要性にもかかわらず、食品に対するPPGR を予測する正確な方法は存在しません。また、PPGRを制御するための既存の食事方法も限られた有効性しか示せていません。

現在の、PPGRを推定する方法は、単一食品の消費に対するPPGRを定量化する血糖指数(Jenkins et al.,1981)が主流です。従って、様々な食品の組み合わせと量からなる実際の食事に対するPPGRの評価への適用性は限られており、実際、血糖指数の低い食事がTIIDMリスク、体重減少や心血管リスク因子に及ぼす影響を検討した試験では、結果がまちまちだったとのこと。

また、食品に対する人間の反応はひとりひとり個別に違うはず。既存の指標は、同じ量の同じ食品を食べることに対して私たちが実際にはまったく異なる反応をするという事実を無視しています。

本論文では、これらの多次元データを統合し、個別化されたPPGRを正確に予測する機械学習アルゴリズムを考案しています。さらにその予測モデルに基づいて実際に食事治療を行い、この予測モデルの妥当性を調べました。

個人のPPGRに合わせ食事を最適化

判断するべき要素が膨大なので、大きく3つのフェーズに分けて予測していきます。

①食事に対するPPGRを測定し、PPGRを構成する要因を特定する 

 

②上記で特定した要因統合した個々のPPGRを予測するアルゴリズムを構築 

 

③開発したPPGRを予測するアルゴリズムに基いて食事治療をする

①PPGRを構成する要因を特定

まず最初に、個別化されたPPGRを定量的に測定し、関連する要因を特定することから着手しました。

この研究には糖尿病のない800人が参加しており、各人のデータには、各食事の時間、飲食物の量と内容、身体活動、身長、体重、睡眠、腸内最近、血糖値などのデータが含まれています。

皮下に連続糖モニター装置を装着し、PPGRを5分おき に7日間測定しています。この間、被験者は提供された5000以上の標準化された食事(朝、昼、晩)を食べ、運動、睡眠などの活動をリアルタイムで記録するように指示されました。 

各食事のPPGR は、報告された食事時間とCGMデータとを組み合わせ、食事の2時間後のグルコース曲線下の増分面積を計算したとのこと。

結果、血糖反応には100を超える要因が関与していることが判明しましたが、驚くことに特に食物が重要な決定要因ではなく、代わりに腸内細菌との大きな相関関係が見られました。特にミクロバイオーム(腸内最近の一つ)の特徴に関しては、PPGRと強く関連していたとのこと。また、以前の食事の内容、睡眠からの経過時間、運動量、などの複合的な要因も含まれていることがわかりました。

 

②PPGRを予測するアルゴリズムを構築

上記で調べた情報を基に、臨床的、微生物学的因子を統合した、個々のPPGRを予測するアルゴリズムを構築しました。

PPGRと異なる因子の間の非線形関係を考慮して、勾配ブースト回帰(フリードマン,2001)に基づくモデルを考案しています。

比較対象として、これまでPPGRの指標(炭水化物の摂取量、カロリーの摂取量)を用いた場合と今回のアルゴリズムを用いた場合の予測の精度を比べました。従来の指標に対して、今回のアルゴリズムでは約2倍近く予測の精度が著しく向上しています。

 

③予測モデルに基づく食事療法介入

最後に、この予測モデルに基づいて個人的に調整された食事介入がPPGRを改善できるかどうかを調査しました。

26人の新規参加者を募集し、臨床栄養士が、各食事タイプ(朝食、昼食、夕食、そして2回までの中間食事)についてまとめ、参加者の通常の食事、食事の嗜好、食事の制約を考慮し、内容を伏せながら以下の2種類の食事内容を個別に指導します。そして参加者全員に1週間ずつ、2つの食事「①低いPPGRを持つとアルゴリズムによって予測された食事」「②予測PPGRが高い食事からなる食事」を行って貰います。

予測モデルに基づいた、良い食事を行った週は、悪い食事を行った週に比べてPPGRの値が圧倒的にに低くなりました。すなわち、この結果は、パーソナルダイエットにより、血糖応答を改善することができるということを示しています。

また、一部の参加者の「良い」ダイエットにおいて定められる複数の優位な食物構成要素が、他の参加者において、「悪い」構成要素として定められたということが分かり、個別化されたダイエットの必要性も明らかになりました。

まとめ

個人で異なる腸内細菌の分布や血糖値の変動をAIで解析し、ダイエット方法など栄養学の領域で個人にとっての最適解を導こうとした今回の試みは、万人に共通のダイエット食品や健康食品は存在しない、という当たり前の結論を証明しました。

また、機械学習によるPPGRの長期の個別化された食事管理は、肥満のみならず、前糖尿病、TIIDM、非アルコール性脂肪性肝疾患をなどの一連の疾患、障害を管理、改善、または予防するのにも有用であり得りえるとのこと。