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がん死亡をAIで予測!?終末期の予後を改善する予測モデルの提案!

がん死亡をAIで予測!?終末期の予後を改善する予測モデルの提案!

medical

3つの要点
✔️ 高齢化が進む中、がんの終末期医療—残された余命を平穏に過ごせるようにおこなわれるケア—に注目が集まり、生存予測が重視されている。
✔️ 本研究は、ウェアラブルデバイスの活動データに基づく長短記憶—Long short-term module: LSTM—モデルに基づき、終末期の院内死亡を予測するモデルを構築
✔️ 評価では、カルノフスキー・パフォーマンス・ステータス—KPS—スコアの総合予後予測精度を活用し、結果のスコアは0.83であった

Deep-Learning Approach to Predict Survival Outcomes Using Wearable Actigraphy Device Among End-Stage Cancer Patients
written by Tien Yun YangPin-Yu KuoYaoru HuangHsiao-Wei LinShwetambara MalwadeLong-Sheng LuLung-Wen TsaiShabbir Syed-AbdulChia-Wei SunJeng-Fong Chiou 
(Submitted on 9 Dec 2021)
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Front Public Health

本記事で使用している画像は論文中のもの、紹介スライドのもの、またはそれを参考に作成したものを使用しております。  

背景

ウェアラブルデバイスにより、生存予測をおこなうことは可能なのか?

本研究では、ウェアラブルデバイス・LSTMの活用に基づき、がんによる院内死亡を対象とした予測モデルの構築、を目指す。

近年、患者数が増え続けるがんに対する生存予測は、終末期医療の臨床現場において重要視されている—終末期に向けた準備を可能にし、無益な医療を避け、最適な緩和ケアを提供する。こうした医療に対する予後判定ツールとして、さまざまなスコアが提唱されている:Palliative Prognostic Score—PaP—, Palliative Prognostic Index —PPI—など。これらスコアは、主観的な臨床パラメータ・客観的なバイオマーカーを組み合わせており、患者のパフォーマンスステータス—活動評価:PS—が主要な構成要素となっている:PSへの評価ツールとして、カルノフスキーパフォーマンスステータス—KPS—がある;一方、こうした評価ツールは主観的であり、適切な訓練を受けた医療従事者が必要でなる—そのため、観察者内・観察者間のばらつき、過大・過小評価、などの課題が指摘されている。

こうした中、客観的な評価法として、ウェアラブルデバイスに注目が集まっている—これらデバイスは、患者の活動状態を常に記録し、また、客観的な検証も可能である。こうした技術を活用し、進行がん患者に対する客観的なPS評価の事例などが報告されている;一方、生存予後の予測に対して、客観的なPSデータを活用した研究、は報告されていない。

本研究では、末期がん患者を対象に、ウェアラブルデバイスを用いて、患者の活動状態を客観的に測定した—ウェアラブルデバイスで記録された活動データを解析し、患者の生存転帰を示唆する予測モデルを開発した。さらに、提案した活動モニタリング・生存予測モデルの予後精度を、現行のPS評価ツールであるKPS、また、PPIと比較した。

ウェアラブルデバイスとは?

初めに、本研究の解析対象である、ウェアラブルデバイスについて簡単に解説する。

ウェアラブルデバイスは、被験者が実際に身に着けて使う情報機器の総称を指す。ウェアラブルは、着用できる・身に着けられる、という意味で、リストバンド・腕時計型、眼鏡型などが存在する。これらの機器は、実際に着用することができるため、運動中から入浴中、睡眠中など日常生活の多くの場面で利用できる—ジョギングやスイミングなどといった運動記録や、心拍や脈拍、睡眠時間などを捕捉して健康情報を取得することに有効である、と考えられる。本研究では、こうしたデバイスのうち、手首に装着するタイプのリストバンド型デバイスを活用し、データを取得している。

手法

ここでは、本研究におけるデータセット、提案モデル、また、解析手法について記す。

データセット

本研究は、台北医学大学病院のホスピスケア病棟で実施された。末期疾患の患者が同病棟に入院し、緩和ケアや痛みなどの症状の管理を行った。年齢、性別、診断名、併存疾患を含む臨床データは、募集後に収集され、対象者はリストバンド型ウェアラブルデバイスを静脈ラインなしで手に装着した:このデバイスは、手の動きの重力加速度、角度変化、スピン変化の3次元データを1秒ごとに収集し、身体活動、角度、スピンという3つの統計パラメータに変換する—耐水性のないデバイスのため、シャワーの時間を除き、入院中ずっとデバイスを装着していた。

その後、KPS・PPIによる予後評価が、2人の専門家によっておこなわれた。KPSは、PS評価のために設計された確立されたツールで、歩行、活動性、疾患の証拠、セルフケア、介助の必要性、疾患の進行を考慮し、正常活動(100)から死亡(0)を評価する。また、PSと他の臨床症状の評価による複合的な予後予測ツールPPIを実施した:PPIは、PSと経口摂取量、浮腫、安静時呼吸困難、せん妄などの臨床症状を考慮し、総合的な予後を算出する。スコアは0から15まであり、PPI>6.0は生存期間が3週間未満と推定される。対人関係の一貫性を確保するため、すべてのKPSとPPI評価を同じ専門医が実施した。

データの前処理とLSTMモデル

ウェアラブルデバイスでの収集データは、3つの特徴量—身体活動、角度、スピン—を持つ時系列データである。データ長のばらつきは、時系列の最大長までのゼロパディングで補正した。また、勾配消失を避けるため、平均値20タイムステップを選択し、時系列を<500タイムステップに短縮した。

本研究では、LSTMを使い、退院時の患者の臨床状態—死亡または安定した状態で退院—を予測するモデルを構築した—下図参照。

xとhは、それぞれLSTMセルの入力値と出力値を示し、また、各LSTMセルのメモリセルの値はcであり、x、h、cの添え字は異なる時点を表す。各LSTMセルには、入力ゲート、忘却ゲート、出力ゲートがある:入力ゲートは、ニューロンが入力値をメモリセルに書き込むか、を決定する;出力ゲートは、ニューロンがメモリセル内の値を読み取るか、を決定する。また、LSTMの活性化関数として、双曲線正接関数—tanh—、シグモイド関数—σ—を活用している。本研究では、3次元時系列データを処理するために、LSTMセルを用いた予測モデルを構築した—下図参照

モデルは、LSTM層、TimeDistributed層 などで構成され、パラメータを調整する。このモデルは、患者の活動データのみに基づいて生存予測を生成するように設計され、患者の人口統計学的データおよび臨床データ—i.g. 合併症—はモデルによって利用していない。

参加者の臨床転帰は,入院期間終了時に死亡(1)、または、安定した状態での退院(0)、で判定した.KPSのカットオフ値は、先行研究より、50%、PPIのカットオフ値は6.0を採用した。KPSとPPIの予測精度は、感度、特異度、総合精度、ROC曲線下面積—AUC—など、を対象に調査した。

結果

このセクションでは、本研究での評価結果について解説する。

KPSとPPIの予後精度

まず、KPSとPPI評価に対する真陽性、偽陽性、偽陰性、真陰性の絶対数を定義した:このうち、真陽性は、ベースライン診察時に、KPS<50%、または、PPI>6.0であり、入院期間終了時にでの死亡、と定義した。KPSスコアの予測性能は、総合予測精度83.1%、感度82.1%、特異度83.9%、AUC 0.902であった—下図参照。バイナリーアウトカムに基づくPPIスコアの予測性能は、総合予測精度95.0%、感度88.9%、AUC 0.960であった。

LSTM生存予測モデルの学習

入院後48時間以内に記録された活動データに基づく予備モデルでは、トレーニングデータセットで0.8667、テストデータセットで0.7143の精度となった。混同行列—下図参照—から、それぞれ正規化した場合と正規化しない場合の混同行列を示したものである。テストデータセットにおけるモデルの感度、特異度、AUCは、0.8333、0.625、0.7292であった。

これら結果は、生理学的情報を持たないウェアラブルデバイスによって収集された時系列データの分類におけるLSTMの実現可能性を示している。加えて、データセットを学習データ、検証データ、テストデータにスライスし、適切なパラメータを用いて最終的なモデルを作成した。その結果、学習精度は0.9667まで上昇し、検証精度とテスト精度はそれぞれ0.75と0.8333であった。LSTMのユニットを64から256に増やしたところ、テストデータセットに対するモデルの性能が大幅に向上した:モデルの感度、特異度、AUCはそれぞれ、1.0、0.6667、0.8333であった—下図参照。

考察

本研究では、末期がん患者における生存予測を目的とした、ウェアラブルデバイスに基づく、予測モデルを提案した—主観的なPS評価と比較して、ウェアラブルデバイスによる客観的な活動データに対してLSTMを導入した結果、高い予後予測精度が示された。本研究で採用したウェアラブルデバイスは、軽量・安価であり、末期がん患者の生存予測に有用な活動データを提供できることが確認された。こうした結果から、終末期医療における、ウェアラブルデバイス・生存予測モデルの導入により、臨床現場における意思決定と患者のより良い終末期への準備が促進されることが示された。

従来の予後予測ツール—PPIなど—における課題として、臨床医の経験に依存する点が存在している;これに対し、提案モデル—活動量モニタリングと生存予測モデル—は、臨床的な専門知識を必要とせず、装着可能なリストバンドのみ使用する:そのため、提案モデルは、臨床現場における医療従事者の負担を軽減し、また、在宅ホスピスなど病院以外の場所での終末期医療を提供できる可能性を促進する。また、生存予測モデルに活動量評価および臨床パラメータを統合することで、より良い予後予測を達成できることが推察される。

一方、本研究における課題は下記のようなものが考えられる:第一に、データの不連続性がある—その原因として、バッテリーの充電要件、また、シャワー中に取り外される点がある—そのため、デバイスの防水性を高め、より優れた活動量追跡装置の導入が必要となる;第二に、入院期間終了時の患者のアウトカム—すなわち死亡または安定した状態での退院—を提供するように設計されている点がある。現場での知見から、最終的な生存転帰にかかわらず生存時間は参加者間で異なる—その一方、提案モデルは推定生存時間ではなく二値生存転帰のみを対象としている:そのため、こうした臨床転帰を含めた解析を追加で行う必要がある。

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