社会人に役立つ人工知能本 三冊しかない説

前回の「社会人のためのAIガチャ入門」は、「AI開発を依頼する側」の視点で書かれました。
今回もデータサイエンティストやAIエンジニアなどの「作る側」ではなく、「依頼する側」を想定しています。
「作る側」の情報は書籍やネットで豊富にありますが、「依頼する側」や「利用する側」の情報不足を懸念しており、今回の記事を書いた次第です。

「AI開発を他社に依頼しても失敗する」が前回の結論でしたが、昨今のブームにより「我が社でもAIを導入したい」「AIで何かやりたい」という要望が、社内(特に偉い人)から挙がってきます。
社長(ED治療で通院中)が日経メディアで同業他社のAI活用事例を見つけると、専務(絶賛パパ活中)にAI導入に指示し、部長(隠れ女装癖)が会議で突如議題に挙げて、課長(錦糸町のロシアンパブ常連)が「我が社のエースに期待だ」とあなたに丸投げする、そんなアメフトタックル的な理不尽がまかり通るのがニッポンのカイシャです。
つまり明日の定例会議で、あなたが「AI導入責任者」になるのは確定的に明らかであり、サラリーマンたるもの上司の命令には背けません。こうしてAI導入責任者となった以上、「どうやって成功させるか?」を給料分くらいは考えましょう。

では「AI開発を丸投げする知識をどうやって学ぶか?」を、一緒に学んでいきましょう。

 

・対象読者

意識と住んでるタワマンの階数が高い「ビジネスパーソン」は対象外です。
出身大学の偏差値と就職したい会社ランキングが低い、上司からの厄介事は無難に回避しつつ、低空飛行な会社員ライフを送りたい方向けです。

・達成目標

AI導入責任者として、「失敗しても人事査定に大きな影響が出ない事」を目標とします。
成功する可能性は皆無なので、「もしかしたらボーナスが増えるかも」という下心は、なか卯の割引券と一緒に捨てましょう。
知識と技術の習得における到達点は、「専門用語を交えつつプロジェクト概要を上司や経営陣に説明し、『おお!言葉の意味はわからんがとにかくすごい自信だ!』」と思わせる事です。
導入責任者である以上、開発は外注任せでも、それっぽい説明スキルは求められます。
経営陣もどのみち、
「業務改善につながる”かも”」「プレスリリースで宣伝効果が出る”かも”」「業界団体の懇親会で同業他社にドヤれる”かも”」 ぐらいの期待値ですから、”なんとなく”納得させれば問題ありません。なお、「AI導入プロジェクト責任者として大成功して一気に出世したい」と勘違いする方は、前回の記事を5万回読みながら、出世先払いでnote経由で10万円課金してください。また、会社の窓口担当として、ナメたAIベンチャーのコピペ提案やSIerのピンハネに脅しをかけつつ、「ヤバそうな客だからちゃんとやるか」と思わせる程度のリテラシーは備えておきましょう。

 

 AIをどうやって学ぶのか?

難しい開発は外注に丸投げとはいえ、最低限の知識や技術トレンドは把握しておきます。
こうした前提知識がないと、打ち合わせで相手が何を言ってるかわかりません(エンジニアはオタクなので一般人との会話が8割通じません)。また、「ITに関する理解が無い」「丸投げしようとしてる」とバレれば、3日で済む作業を1ヶ月と見積もられたり、無料ツールでできる作業を高額な専用ソフトが必要などと追加料金を取られます。勉強する必要性について、改めて認識してください。

最近では「AI導入を検討する担当者」向けに、各種セミナーやトレーニングなどが無料有料を含めて、多くの会社で開催されています。ただし、こうしたセミナーなどで学ぶことはおすすめできません。

無料セミナーでは、実質自社製品やサービスの紹介がメインとなり、AIについて技術的・体系的に学べる内容は皆無です。相談や質問をしても、「弊社製品で実現できます」「コンサルティングサービスでご案内します」と誘導され、自社製品のパンフレットと売り込みメールが残るだけです。有料セミナーは「とにかくAIをわかる人材育成したい」という弱みにつけこみ、詐欺まがいな会社が横行しています。日経のムック本(1500円)をコピペして引き伸ばし、カルピスウォーターの水割りみたいなカリキュラムでも、受講料10万円はザラです。また、有料セミナーを受講すると「会社の金を使ったのだから結果出せ」と、プレッシャーが増すので注意しましょう。

ネットで調べるのは手軽で情報量も豊富ですが、玉石混交かつ断片的であり、初学者が順序立てて学ぶには適してません。「AI情報専門サイト」は、他メディアから引用ばかりで、導入事例や製品紹介、プレスリリースばかりです。オンライン学習サービスは無料有料を含めて山ほどありますが、AIエンジニアやデータサイエンティスト育成を前提とした技術的なものです。

一般人にとっては、五反田の会員制SMクラブ並にハードルが高く、女王様からの放置さえも快感になるドM以外には勧めらません。現代に則して「個人の力で集合知」などと意気込み、「よーし、パパSNS活用しちゃうぞ」と考えるのは最も悪手です。

InstagramはAIスタートアップでインターン中の自称インフルエンサー学生が飲み会のキラキラ写真アップするだけで、Facebookは世界で戦うスーパーグローバルデータサイエンティストが空港のラウンジで西海岸のコーヒーについてポエムを投稿するだけで、最も情報が豊富と思われるTwitterは一番の人外魔境で、イキリDSと呼ばれる勢力によってあらゆる情報が歪められています。
なお、情報を歪めているのはイキリDSの中でもネットの匿名性をいいことにAIベンチャー社員を自称し、リアルでも覆面姿で人前に出てくるという、仮想通貨女子や仮面女子のようなアイドルユニット気取りの人が該当します。

残った選択肢は書籍による地道な勉強ですが、この方法が王道であり、専門知識を学べる唯一の方法です。
「本を読むのは苦手。小学生の頃は夏休みの最終日に泣きながら読書感想文を書いてた」という方も、ノスタルジックに浸りつつ、半泣きで本を読むしかありません。

長い前振りでしたが、ここからが本題です。
サラリーマンが人工知能について学べる本を紹介します。

 推薦図書の紹介

ITに詳しくない一般社会人向けとして、「数式を使わない」「プログラムが出てこない」という要件を満たす本を3冊紹介します。

・誤解だらけの人工知能 ディープラーニングの限界と可能性

著:田中潤,松本健太郎
価格:864円

現在の人工知能について、概要を一通り学ぶ人が読む最初の一冊です。
新書なので読みやすく、幅広く必要な点がまとめられており、値段も手頃です。
最初から「エンジニアではなく普通の人ありき」で書かれており、人工知能の専門家である田中氏と、データサイエンティストの松本氏による共著のメリットが最大限生かされています。
技術書ではなく新書として「わからない人がわかるように伝える」文章で構成されているのが特徴です。
内容は人工知能の歴史、ディープラーニングの強みと弱点、音声認識に注力する理由、業務自動化の可能性、自動運転・顔認証・画像認識の技術進歩、ロボットの未来、シンギュラリティ到来の是非、人工知能が普及した社会への言及などが含まれます。
最終的に人間の生き方に帰結しますが、今を生きる我々に出来ることは「勉強するしかない」という結論に至る点が興味深いです。

 

・機械脳の時代 データサイエンスは戦略・組織・仕事をどう変えるのか? 著:加藤 エルテス 聡志

価格:1944円

本書はデータサイエンスと機械学習に言及していますが、世間で言われる「AI」と同義であり、そもそもAIの定義自体が曖昧なので、言葉を置き換えても問題ありません。
前述の「誤解だらけの~」よりも企業などの事例が豊富で、Googleなどの先進IT企業やコマツ(建機)やホンダ(自動車)といった、AIとは無縁に思われる会社の取り組みも、実例紹介としても役立ちます。
技術的な内容も含まれますが、エンジニア向けではなく初学者にも理解できる説明なので、心配は無用です。
機械学習の強み(可視化・分類・組み合わせ)や、実施された取り組み(事故防止・センサーデータの活用・コミュニケーションの可視化)、不正検知、病気の発見、顔認識、映画の興行予測、購入予測(おすすめの紹介)、退職予測など、事例が豊富です。
後半では機械学習(AI)導入に必要な準備として、組織として取り組む課題や具体的な目標設定などについて提案されており、「とにかくAIをやろう」と考える企業は一読してから検討してほしいものです。
開発手法についても、既存ライブラリやクラウドサービスの利用、自前主義へのこだわりが不要な点など、大まかなトレンを把握できます。
開発準備に不可欠なデータ選びのコツやデータクレンジングの必要性なども、開発を依頼する側としては重要です。
最後のデータサイエンス組織の作り方では、「どのようなスキルを持つ人材が必要なのか?」「アンチパターン(これをいってはいけない・失敗例)」は、多くの企業が陥りやすい失敗なので、上層部への提言として利用しましょう。

 

・人工知能はこうして創られる

編著:合原一幸 著:牧野貴樹、金山 博 、河野 崇、青野真士、木脇太一
価格:1620円

大学や企業などの人工知能研究者による共著となります。
上記二冊と比べて研究者・アカデミック寄りの内容になりますが、理論を理解する上で読んでおきましょう。
内容はこれまでの人工知能の歩みを紹介しながら、現在のAI技術の限界を指摘しており、「AIで何でも出来る」と誤解する方に冷水を浴びせる部分もあります。
こうした技術的な限界の認識も重要ですが、上層部への説明では安易に批判的にならないよう注意しましょう。
内容はディープラーニングの仕組みや機械学習、IBMのエンジニアに寄るワトソンの詳細などが詳しく説明されています。
踏み込んだ内容として、脳の研究や構造などにも言及しており、全て理解するのは難しいかもしれません。
しかしながら、「人工知能についてこれだけ調べている」と開発元に知らしめたり、理論を学ぶ姿勢を育む目的も含まれています。
会社の業務で脳の構造まで論じる事はありませんが、脳を模したものが人工知能であり、その上で「何ができて何ができないか」か自力で考える素材となるでしょう。

 

上記三冊に加えて、以下の書籍も参考になります。
少々難しい本もありますが、初学者や「開発はしないがAIやデータ分析についてより詳しく知りたい」方向けの本です。

・AI開発及び外注の流れを学ぶ
人工知能システムを外注する前に読む本
人工知能システムのプロジェクトがわかる本
大まかなAI開発全体の流れを学べる本です。
機械学習など個別技術について詳しい記述はありませんが、今回の趣旨としては問題ない程度です。

・データ分析業務全体の流れを学ぶ
データ分析プロジェクトの手引 
データの取得や前処理(準備)、分析手法や予測モデルなど、データ分析業務の全体を学べます。
少々古い記述も見られますが、基本的な部分は現在でも変わりません。
分厚さと値段の高さが難点です。

・データ分析組織について
会社を変える分析の力
最強のデータ分析組織 なぜ大阪ガスは成功したのか
元大阪ガスのデータ分析組織「ビジネスアナリシスセンター」で所長を務めた河本薫さんの本です。
データ分析チームの組織論や、データ分析を社内で実践するためのノウハウなど、会社全体で「データ分析」を育むための経験や手法がまとめられた良書です。

 

上記の本を読むことで、以下の内容を身に付けることができます。

1.AIは何ができて、何ができないかがわかる。
2.社内業務でAIを活用できる範囲を認識できる。
3.AI導入及び開発のために必要な準備がわかる。
4.AI以外に問題を解決できる方法が無いか検討できる。
6.開発元に対して、AIによる業務改善を現実的な範囲で説明できる。
7.上長や経営陣に、AIの必要性及び不要な理由を説明できる。
8.開発に必要なツールや環境をイメージできる。
9.開発にかかる費用やスケジュールを理解できる。
10.必要な予算やスケジュールについて、上層部に説明できる。

 

検証結果

 まとめ

近い将来、AIに関わる事が当たり前になるかもしれません。
しかしながら、AIエンジニアやデータサイエンティストではない、一般的な社会人において、IT知識は乏しいのが現状です。
何もわからないままAI開発を外注に依頼する事は、前回記事の「AIガチャ」でしかありません。
数冊の書籍を通して学んでおくだけで、突如「AI導入担当」になっても最低限の立ち振舞はできますし、大失敗する可能性を引き下げます。
この程度の手間も惜しんで「AIを導入には何をすればいいですか?」と丸投げする会社は、「マスクド・アナライズのネタにされる」という感覚を持ってください。

推薦図書として三冊を挙げていますが、忙しい社会人でも何とか読める冊数かと思います。
しかも3冊合わせて5000円以下なので、飲み会を1回我慢すれば捻出できる金額です。
こうした案件を任される中堅社員以上の立場や、小遣い制で懐の厳しいお父さんにも配慮しています。
担当者が勉強しておくだけで、外注も「協力的な顧客」と受け止めて支援してくれるでしょう。
担当者の勉強は低いコストで高いリターンが望めるので、メンヘラ風俗嬢がホストの彼氏に貢ぐのをやめさせようにも、「この人は私のこと殴らないから」と言い出す感覚がわかります。

今回は挙げた本以外にも、皆さんからも「エンジニア以外の初心者におすすめしたい人工知能本」があれば、ご意見をお待ちしております。
もちろん本を数冊読んだだけで成功しませんし、そもそもAI開発自体が失敗と挑戦を前提とする事に変わりはありません。
何も考えず目隠しをしたまま、低すぎる確率に任せてガチャを回すのではなく、自社業務におけるAI活用手段を見極めて開発元に騙されないようにすべきです。
SNSでもエンジニア同士の意見交換は活発で、特にTwitterではイキリDSの方々が世間のニュースに様々な見解を示したり、初学者や学生の質問や相談に応じています。
まずは彼らをフォローしてみて、現場からの生きた意見を参考してみてはいかがでしょうか。
とはいえ好意に甘えずに、聞く前に自分で調べて考える習慣を身に着けましょう。

こうして理解を深めれば、ナメたAIベンチャーやSIerに金をむしられることもなく、役に立たないAIポエムや経済誌のペラい特集記事にも騙されません。こうした社会人のITリテラシー向上を目的として、今回の記事を執筆しました。

最後に伝えておきますと、AI開発を請け負う弊社では「ちょっと本読んだだけの客は中途半端に口出しするので面倒」という経験があります。

 

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