最新AI論文をキャッチアップ

ChatGPTは、私たちの生活、ビジネスと産業、教育にどんな影響を及ぼすのか?

ChatGPTは、私たちの生活、ビジネスと産業、教育にどんな影響を及ぼすのか?

ChatGPT

3つの要点
✔️ 自然言語処理に革新をもたらしたChatGPTの用途やリスクを調査。特にビジネス、教育の領域での影響が焦点に。
✔️ ChatGPTは時間と費用を節約する一方で、誤解を招く結果やバイアスを生じ、倫理的な問題を引き起こし、誤用される可能性。
✔️ 日本を含む各国で、生成AIの使用に関するガイドラインを検討中。

ChatGPT: Applications, Opportunities, and Threats
written by Aram BahriniMohammadsadra KhamoshifarHossein AbbasimehrRobert J. RiggsMaryam EsmaeiliRastin Mastali MajdabadkohneMorteza Pasehvar
(Submitted on 14 Apr 2023)
Subjects: Computers and Society (cs.CY); Computation and Language (cs.CL)
Comments: Preprint accepted in IEEE Systems and Information Engineering Design Symposium (SIEDS) 2023


code: 

本記事で使用している画像は論文中のもの、紹介スライドのもの、またはそれを参考に作成したものを使用しております。

概要

2022年にOpenAIによって開発されたChatGPTが社会現象になっています。ChatGPTは、大規模な言語モデルであり、広範囲のテキスト生成タスクを扱うことができます。元となっているGPTとは「Generative Pre-trained Transformer」の略で、自然言語処理(NLP)タスクのための汎用的な大規模な言語モデルです。これらのモデルは、ウェブ上で入手可能な大量のテキストデータを使って学習され、あらゆるテキスト情報を生成することができます。今の大規模言語モデルは、約1兆文字、書籍で1,000万冊相当を学習しているとも言われています。OpenAIは、GPT-1から始め、その後GPT-2、GPT-3、GPT-3,5、そして現在はGPT-4と研究開発を進めてきました。これらのモデルは逐次的に学習され、1つ前のモデルの結果をもとに改善が行われてきました。

ChatGPTは、このGPTモデルの一部であり、特に対話形式のテキスト生成に特化したものです。人間と自然に対話することができ、ユーザーが入力したテキストに対して、適切な応答を生成することができます。これにより、ChatGPTはユーザーサポート、教育、エンターテイメントなど、様々な用途に利用することができます。社会のあり方を変えていく、大きな可能性を秘めている一方で、相応のリスクもあるとされ、大きな社会問題になっています。

今回紹介する論文では、既存のChatGPTに関する文献を精査し、「ビジネスと産業」「教育」「科学と技術」「政府と政治」「ヘルスケアと医療」「インフラ」「環境と持続可能性」「コミュニケーション」「芸術と文化」「ライフスタイルとレジャー」の10個の領域について、ChatGPTの用途、可能性、リスクについて整理しています。この記事では、論文の中で特に重要とされている「ビジネスと産業」「教育」ついて紹介します。

「ビジネスと産業」における用途とリスク

ビジネスと産業の領域では、運用と管理、サプライチェーン管理、ビジネス分析、輸送、人事、マーケティング、電子商取引、会計、金融、小売、不動産、保険など非常に幅広い応用が考えられます。例えば、サプライチェーン管理に関して見てみると、ChatGPTは次のようなタスクに利用することができるとしています。

  • 需要予測:過去のデータと市場のトレンドを分析して製品やサービスの需要を予測することができ、在庫管理と生産計画を最適化することができる。
  • 在庫最適化:在庫データを分析し、在庫数を最適化し、品切れを減らす。注文に対応する所要時間を減らし、コストを削減する方法を提案できる。
  • サプライヤーの選定と評価:品質、価格、リードタイム、信頼性などの要素に基づいて潜在的なサプライヤーを特定し、評価できる。
  • 物流最適化:ルート最適化、キャリア選択、その他の物流タスクを支援して、商品の迅速かつ効率的な配送を確保することができる。
  • リスク管理:サプライチェーンデータを分析して潜在的なリスクを特定し、サプライチェーンの中断時に代替のサプライヤーを特定するなど、それらを緩和するための推奨事項を提供することができる。

これらは、ChatGPTがサプライチェーン管理のタスクをサポートする方法の一例です。大量のデータを迅速に処理し、分析する能力があり、それによって企業や産業がより良い決定を迅速に下し、運用を改善することができるとしています。その結果、変化の速いビジネス環境で高い競争力を保ち、さまざまな利益を得ることができるとしています。

一方で、新しいものにはリスクが付き物です。AIモデルの精度は入力データに依存します。ChatGPTも例外ではなく、データに関するリスクがあります。利用可能で高品質なデータへの依存、信頼できない結果、バイアスのある結果、幻覚、透明性の欠如、倫理とデータプライバシーに関する懸念、サイバーセキュリティリスクなどが懸念されるとしています。例えば、先ほどのサプライチェーン管理に関してみると、ChatGPTが直接的な脅威となることはないものの、企業が認識すべき点があるとしています。

  • 技術への過度の依存:サプライチェーンがChatGPTの予測に過度に依存すると、人間の判断力と意思決定能力が失われるリスクがある。ChatGPTの結果が不正確またはバイアスがかかっている場合、サプライチェーンは悪影響を受ける可能性がある。
  • サイバーセキュリティリスク:ChatGPTが機能するためには、大量のデータが必要があり、それらはサイバー攻撃に対して脆弱である可能性がある。ハッカーは、ChatGPTを使用して情報を盗み、サプライチェーンのデータを操作する可能性がある。
  • データバイアス:ChatGPTからの正確な予測は、サプライチェーンの成功にとって重要であるため、ChatGPTの学習に使用するデータが偏っていないことを精査する必要がある。
  • 透明性の欠如:ChatGPTによる予測の根拠を理解することは難しい。
  • 倫理的な懸念:ChatGPTが仕事やプライバシーなどにどのように影響を及ぼすかについての懸念される。ChatGPTの利用が、関係者に及ぼす可能性のある潜在的な不利益を慎重に考慮する必要があり、それらを軽減するための措置を講じる必要がある。

これらのリスクを軽減するために、企業は人間の判断と技術のバランスを保つ、潜在的な攻撃からデータを保護するための強力なサイバーセキュリティ対策を講じる、適切なデータガバナンスポリシーを持つ、専門家を用いて結果を分析する、そしてChatGPTの公正さと精度を慎重に評価するなどが必要としています。

「教育」における用途とリスク

教育分野では、パーソナライズされたカリキュラムや問題、適切なフィードバック、学習者のエンゲージメントの向上といった幅広い応用が考えられます。ChatGPTは個々人に効果的で公平な学習を提供する重要なツールになる可能性があるとしています。例えば、教育支援、ライティング支援に関しては、次のようなタスクをサポートできるとしています。

  • 教育支援:教材を作成し、進捗に応じて学習支援する問題を作成し、回答を評価し、適切なフィードバックを提供できる。一般的な質問に答えたり、複雑な概念を理解するのを助けたり、R/Python/Javaなどのプログラミング言語のサンプル例を提供することもできる。
  • ライティング支援:文の構造、文法、語彙、句読点、引用、盗作についてフィードバックを提供してライティングスキルを向上させることができる。また、アイデアの整理やブレインストーミング、議論をより説得力のあるものにする方法、ライティングスタイルの例、文を短くまたは長くする方法などを提案することもできる。

ChatGPTの教育への利用は、特に子供に対する場合、学習体験に直接的かつ大きな影響を与えるため、責任を持って行う必要があり、そのために継続的かつ慎重な研究・観察が必要であるとしています。また、AIを教育に導入することは、倫理的および社会的な脅威を引き起こす可能性があるとしています。人種差別、性差別、外国人嫌悪などの様々な不平等が増幅する可能性があるとしています。ChatGPTの教育において、次のようなリスクあるとしています。

  • テクノロジーへの過度な依存による創造性と批判的思考の低下:研究者、教師、学生がChatGPTに過度に依存すると、創造性や批判的思考力の低下、研究方法の多様性の欠如が生じる可能性がある。また、ChatGPTが彼らのために作業を行っていると感じると、学生の学習意欲が低下する可能性もある。
  • 不正確または偏った情報:ChatGPTの回答は必ずしも正確ではなく、訓練データのバイアスやステレオタイプを意図せずに強化する可能性がある。
  • 人間との対話の欠如と教育への動機の低下:ChatGPTは支援とフィードバックを提供できるが、教師やメンターとの人間の対話やパーソナライズされたフィードバックの価値を置き換えることはできない。これは学生の社会的、感情的な発達にとって必要不可欠である。
  • 技術的な問題:他のテクノロジーと同様に、ChatGPTはバグ、サーバーダウンタイム、特定のソフトウェアやデータ形式との互換性の問題などの技術的な問題に直面する可能性があり、これが教育を中断させ、妨げになる可能性がある。
  • 倫理的な懸念:ChatGPTを学術研究で使用することには、プライバシーの懸念やデータの所有と管理、同意に関連した問題などの倫理的な懸念がある。また、学生や研究者が適切な引用をせずに情報をコピー&ペーストするなどしてChatGPTを誤用する可能性もある。
  • セキュリティの懸念:学生の成績、テストスコア、個人情報などの機密データをChatGPTに保存することは、セキュリティリスクを伴う可能性があり、データ漏洩の可能性が高まる。

これらのリスクを軽減するために、教育者は創造性とモチベーションの低下を防ぐために批判的思考を強調する、不正確または偏った情報の可能性について学生に認識させる、人間との対話の欠如に対処するために協力学習とピア学習を推進する、倫理的およびセキュリティの懸念に対処するためにAI技術の使用に関する明確なガイドラインとポリシーを設定する、起こりうる技術的な問題に対するバックアッププランを準備することなどを挙げています。

まとめ

この論文では、社会問題になっているChatGPTについて、ビジネスと産業、教育の領域を中心にその影響やリスクを整理しています。ChatGPTは時間や費用を削減し、効率的に物事を進めることができるようになる一方で、誤解やバイアスを生み出し、倫理的な問題を引き起こし、誤用される可能性もあるため、これらのリスクを軽減するための措置を講じることが重要です。このため、一部の国では利用ガイドラインを策定するまで使用を禁止するなど、慎重な対応が行われてきました。日本でもChatGPTをはじめとする生成AIに関する検討が進んでおり、2023年6月26日には、政府の「AI戦略会議」において、急速に進化が進む生成AIの普及に対応するため、統一のガイドラインを年内に策定する方針を決めました。また、これとは別に文部科学省においても教育現場向けのガイドライン「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」を2023年7月4日に公表しました。

AIの開発においては、開発者がデータを直接的に学習させるため、人間性とは何か、倫理観とは何か、偏見や差別とは何かという問題に向き合わなくてはなりません。また、小中高生の教育における生成AIのあり方を考えるにあたっては、教育の目的、備えるべき能力や資質、教育そのものに向き合う必要があり、非常に難しい議論になっています。

今後もChatGPTを含む生成AIの更なる進化が予想されています。それに伴い、ガイドラインの策定や改訂が行われ、事例が集まっていくと思われます。生成AIが人間や社会にどんな影響を及ぼすのか、また、その得られた結果に対してどのように対応していくべきか、中長期の継続的な情報収集と検討が求められるでしょう。

  • メルマガ登録(ver
  • ライター
  • エンジニア_大募集!!
Takumu avatar
インターネット広告企業(DSP、DMP etc)や機械学習スタートアップで、プロジェクトマネージャー/プロダクトマネージャー、リサーチャーとして働き、現在はIT企業で新規事業のプロダクトマネージャーをしています。データや機械学習を活用したサービス企画や、機械学習・数学関連のセミナー講師なども行っています。

記事の内容等について改善箇所などございましたら、
お問い合わせフォームよりAI-SCHOLAR編集部の方にご連絡を頂けますと幸いです。
どうぞよろしくお願いします。

お問い合わせする