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タンパク質の挙動を可視化!AlphaFoldで巨大なタンパク質複合体である核膜孔の形と動きを明らかに。

タンパク質の挙動を可視化!AlphaFoldで巨大なタンパク質複合体である核膜孔の形と動きを明らかに。

medical

3つの要点
✔️ Google(Alphabet)傘下のDeepMind社によりタンパク質立体構造予測アルゴリズムAlphaFold2が発表
✔️ AlphaFold2により核膜孔複合体(NPC)のほぼ完全な立体構造が判明
✔️ 構造解析によりマイクロ秒単位での分子動力学シミュレーションが可能

Artificial intelligence reveals nuclear pore complexity
written by Shyamal MosalagantiAgnieszka Obarska-KosinskaMarc SiggelBeata TuronovaChristian E. ZimmerliKatarzyna BuczakFlorian H. SchmidtErica MargiottaMarie-Therese MackmullWim HagenGerhard HummerMartin BeckJan Kosinski
(Submitted on October 27, 2021.)
Comments: Published on bioRxiv.

Subjects: Computer Vision and Pattern Recognition (cs.CV)

本記事で使用している画像は論文中のもの、紹介スライドのもの、またはそれを参考に作成したものを使用しております。

Abstract

核膜孔複合体(nuclear pore complexes, NPC)は、細胞核内外の物質輸送を媒介します。NPCの構造は、120メガダルトンと巨大かつ複雑で十分に理解されていませんでしたが、本稿ではほぼ完全な構造モデルを提示します。

本研究では、AIを用いた構造予測とin situおよびin celluloの低温電子トモグラフィーを組み合わせ、統合的なモデリングを行いました。その結果、リンカーヌクレオポリン(nucleoporin, Nups)が、サブ複合体内あるいはサブ複合体同士の間で足場を構成し、高次構造を構築していることが明らかになりました。またマイクロ秒単位の分子動力学シミュレーションにより、足場は内核膜と外核膜の融合を安定させるものというよりも、中心孔を広げる役割を担っていることが示唆されました。本研究では、AIベースモデリングと構造生物学を融合することで細胞内構造を理解できることを証明しています。

Introduction

上図は" In situ structural analysis of the human nuclear pore complex"(von Appen et.al , 2015)より引用。

核膜孔複合体(NPC)は、核と細胞質の間の輸送に必要不可欠で、真核生物の細胞内活動にも重要な役割を果たしています。NPCの機能をより深く理解するためには、その構造の詳細を明らかにする必要がありますが、NPCは約120 MDaと巨大で複雑なタンパク質複合体であるため、研究は困難を極めていました。

NPCは、細胞質リング(CR)と核リング(NR)からなる2つの外側リングと、内側リングからなります。各リングは幅40-50µmの輸送チャネルを取り囲む8本のスポークで構成されています。

ヒトのNPCには約30種類のヌクレオポリン(nucleoporin, Nups)が約1,000コピー含まれており、それらはサブコンプレックスに分かれています。それぞれのサブコンプレックスが組み合って高次構造が作られていますが、それはNupリンカーと呼ばれる柔軟なタンパク質によって達成されています。

そして現在の構造モデルは、Nupsをすべて含んでいるわけではなく、構造決定ににホモロジー(相同性)を利用している点などから、本質的に欠陥を抱えていました。さらにヒト以外の生物ではNPCの複雑性が大幅に減少しており、ヒトを対象とする研究には応用できずにいます。

本論文では、単離した核エンベロープ(NE)およびin situのヒトNPCを用いて、低温電子断層撮影法(cryo-electron tomography, cryo-ET)とAIを用いた構造予測を組み合わせました。その結果、これまでにない精度でヒトNPCの足場の立体構造を推定することに成功しました。さらにAIベースのモデルは、未発表タンパク質のエックス線結晶構造解析、クライオ電子顕微鏡および補完的なデータと一致することが実証されました。

Results

*訳者注。原稿にはMaterials and Method部が掲載されていません。プレプリントのためか、see Methodと書かれている部分には"Error! Reference source not found."と振ってあります。

ヒトNPC足場の亜完成(near-complete)モデル

これまで発表されたヒトNPC構造モデルの完成度は、電子断層撮影の解像度やNupsの構造不明による限界がありました。そこでHeLa細胞から核膜を精製しcryo-ET分析にかけデータセットを作成しました。また冷却集束イオンビーム(cryo-focused ion beam, cyro-FIB)で薄片化した細胞からもcryo-ETマップを得て、データセットとしています。

そしてヒトNups構造モデルを作成するために、AlphaFoldRoseTTAfoldを利用したところ、ほとんどのNupsを高い信頼度でモデル化できることがわかりました。さらに未発表のNupsのエックス線結晶解析結果と照会することで、本モデルの精度を検証しました。

著者らは、ColabFold(訳注。Google Colabで利用できるAlphaFold)を用いてNupsのモデル化を試みました。その結果、公開済みあるいは未発表のエックス線結晶解析の結果と一致していることが明らかになりました。

上記より、著者らはcryo-ET画像とAIによる構造モデルからヒトNPCのほぼ完全なモデルを構築することに成功しました。そして予測されたNupsの構造に対して、Assemblineと呼ばれるプログラムをかけることで、収縮状態と拡張状態のNPCをモデリングすることにも成功しています。

以下に明らかになったNPCの構造を示します。

 このモデル化によって、これまで不明だったNup93はCR(細胞質リング)とNR(核リング)の両方でY複合体との橋渡しをしていることも明らかになりました。他にもmRNA輸送に最適な構造が核膜孔には存在していることもわかりました。

リンカーNupsは高次構造の空間的組織化に役立つ

柔らかい(無数の構造をとる)タンパク質の動きや、それを伴う物質の移動の3次元的軌跡を追うことは非常に難しい課題でした。著者らは本稿のモデルで明らかになった構造に対して、粗視化あるいは精細化を施すことでリンカーNupsの軌跡を近似することにも成功しました。

その結果、Nups35のリンカー領域がIR(内側リング)のスポーク間で橋渡しの役割を果たしていることがわかりました。このNups35ブリッジは、NPCの収縮状態と拡張状態のいずれでもとることのできる唯一の幾何学的配置であることが分かり、Nups35がIRを膜面に沿って水平方向に構築させるオーガナイザーとして機能していることが示唆されました。

上図は、ヒトNPCにおけるタンパク質リンカーの連結性を示したものです。

内外側リングの接点を調整する膜貫通型のハブ

ヒトNPCでは3つの膜貫通型のNupsが知られていましたが、その正確な位置は不明でした。これもAIベースモデリングとEMマップにフィットさせることで、それらの位置が明確に特定されました。

上図のようにヒトNPCにおける膜結合モチーフは足場全体に分布しています。AladinとNDC1は、Nup155と一緒に膜貫通型のハブを形成しています。

NPCの足場は、膜の張力なしに膜の収縮を防ぐことができる

NPCの足場の構造は、内核膜と外核膜の融合部で膜を安定化させるため、異なるモチーフを進化させてきたと考えられてきました。そこで膜の彎曲に対する足場構造の寄与を調べるため分子動力学シミュレーションを行いました。その結果、足場なしでの孔の直径は、足場ありのものよりも小さいことが示されました。つまり核膜は足場構造を押しているということで、これまでの実験結果と一致しています。逆に言えば、NPCの足場は核膜の直径を広げるために機能していることが示唆されました。

Discussion and conclusions

著者らは、精製された核膜における収縮状態と細胞内の拡張状態の2つのヒトNPCのほぼ完全なモデルを構築することに成功しました。このモデルにより、これまでわかっていなかった複数のドメインやタンパク質、Nupsの機能が明らかになりました。

本モデルは、NPCのダイナミクスと機能に関するさらなる研究の基盤となります。NPCがどのように核膜と相互作用するのか、機械的な刺激にどう反応するのかなどの課題に対して定量的かつ予測的に論述できるようになるでしょう。

 

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災害時の身元確認のため、写真から歯を認識するAIを開発しています。ブログにてドクター向けにPython基礎講座を書いています。 歯科医師/ 歯学博士/ 日本学術振興会特別研究員PD/ 日本メディカルAI学会公認資格/ 基本情報技術者。

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