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いつどこでも病気を診断できる!?ウェアラブルデバイスの心電図を活用した、不整脈の診断モデルの提案!

いつどこでも病気を診断できる!?ウェアラブルデバイスの心電図を活用した、不整脈の診断モデルの提案!

medical

3つの要点
✔️ 医療分野における臨床時系列データにおいて、ウェアラブルデバイスによる心電図—Electrocardiogram: ECG—信号に基づく不整脈に対する診断に注目が集まっている
✔️ 本研究では、リソース制約のあるウェアラブルデバイスに適したDLの設計を目的として、軽量のニューラルネットワーク—KecNet—を提案する
✔️ 評価の結果、正解率—ACC—、感度—SEN—、適合率—PRE—は、それぞれ99.31%、99.45%、98.78%、となった

KecNet: A Light Neural Network for Arrhythmia Classification Based on Knowledge Reinforcement
written by Peng LuYang GaoHao XiYabin ZhangChao GaoBing ZhouHongpo ZhangLiwei ChenXiaobo Mao
(Submitted on 24 Apr 2021)
Comments: J Healthc Eng

本記事で使用している画像は論文中のもの、紹介スライドのもの、またはそれを参考に作成したものを使用しております。 

背景

ウェアラブルデバイスで高精度な不整脈の予測はおこなえるのか?

本研究では、ウェアラブルデバイスによるECGの取得を前提とし、リソース制約のある中で不整脈の分類をおこなうモデルの構築、を目指す。

死亡リスクの高い心疾患の中でも、特に不整脈は最も患者数が多いとされ、脳卒中・心臓死の主な原因である。こうした中、心電図—ECG—は、非侵襲的かつ簡単に計測できるため、不整脈の検出ツールとして普及している;一方、不整脈はランダムに発生する特徴があるため、長期間にわたり患者を監視する必要がある—その結果、膨大なECGの処理に多大なコストが必要となる。そのため、こうしたコストの発生しづらいウェアラブルデバイスに注目が集まっており、これら機器を活用した不整脈診断システムによる処理コストの削減、および、不整脈分類の精度向上に期待がかかっている。

こうした中、DLに基づくECG分類アルゴリズムに注目が集まっている。不整脈自動認識では、個人差の影響が大きい心拍の特徴を活用するため誤差が生じやすい課題がある—そのためこうした特徴を加味した分類モデルを構築できるDLが注目されている;一方、DLでは、モデル性能がネットワークの規模に依存する課題がある—ネットワーク規模が大きいほど、性能が向上する特性がある;そのため、計算能力とメモリ容量の両方における制約があるウェアラブルデバイスでは、既存のDLアルゴリズムが適合しない可能性が高い。そのため、リソースに制約のある環境でも動作する軽量なネットワークを構築することが求められている。

本研究では、ウェアラブルデバイスの活用を前提とし、ECG信号をもとに、軽量なDLアーキテクチャ—KecNet—を提案する。提案手法の特徴は下記の通りである:各アプリケーションに適合するよう、デジタル信号処理に基づいてCNNネットワーク—Sinc convlution—の導入;ECGの特徴を臨床知識に基づく追加パラメータの活用。

ウェアラブルデバイスとは?

ここでは、本研究の解析対象である、ウェアラブルデバイスについて簡単に解説する。

ウェアラブルデバイスは、被験者が実際に身に着けて使う情報機器の総称を指す。ウェアラブルは、着用できる・身に着けられる、という意味で、リストバンド・腕時計型、眼鏡型などが存在する。これらの機器は、実際に着用することができるため、運動中から入浴中、睡眠中など日常生活の多くの場面で利用できる—ジョギングやスイミングなどといった運動記録や、心拍や脈拍、睡眠時間などを捕捉して健康情報を取得することに有効である、と考えられる。

手法

ここでは、本研究における提案モデルについて述べる。

目的関数

提案モデルでは、最適化問題—下式参照—を対象とした、パラメータ調整による学習ステップがおこなわれる。

f(∗, θf):データとラベルのマッピングをシミュレートする関数;θ:マッピングfに関連するパラメータ;L:ラベルy(i)を持つサンプルx(i)に対して予測カテゴリーを割り当てる損失を記述する関数

関連研究では、分類モデルの性能を向上させるためネットワークの層数を増やし、非線形演算を加える—表現力を高める—アプローチが主流であった;しかし、このアプローチには3つの問題がある:第一に、層数の増加から、ネットワーク内のパラメータが増加し、モデルの保存の困難さ・計算の複雑さが増大する;第二に、モデルの深さの増大により、勾配消失が発生する可能性がある—その結果、パラメータを効果的に更新できなくなる;第三に、モデルの過学習を防ぐため、多くの学習データが必要となる。そのため、モデルの複雑さ・学習データを増やさず、浅いネットワークに基づき、より良い分類性能を達成することが持つようとなる。本研究では、畳み込みニューラルネットワーク—CNN—の設計プロセスに対して、関連するドメイン知識を導入した:ECG信号のノイズをフィルタするバンドパスフィルタの振幅―周波数特性の活用;ECGデータにおける特徴に対する追加パラメータの抽出。

提案モデル

提案モデル—下図参照—は、下記のように構成される:データをセグメント化・正規化;セグメント化されたデータをKecNet—提案モデル—に投入;統合された特徴ベクトルをソフトマックス分類器に挿入。

ECGは、心筋の様々な部位における電気活動の混合物である—そのため、データの質次第で、ベースラインドリフト、モーションアーチファクト、筋電図干渉など、複数の種類のノイズが含まれる可能性が高い。こうした背景から、CNNの最初の畳み込み層における最適化が重要となる—この層では、元々のECGを直接処理し、後続の畳み込み層がデータの複雑な非線形表現を実行する補助をする役割がある。本研究では、音声認識のために開発されたSinc-convolution 層を導入する:この層は、バンドパスフィルタ設計のためのパラメータ化カーディナルサイン—Sinc—関数に基づいて構成される。従来のCNNがフィルタの全てのパラメータを学習するのに対し、Sinc-convolution—下式—は事前に調整可能なフィルタバンクgを定義・学習する。

Sinc-convolution は、CNN と比較し、周波数特性の選択性が高い特徴がある—複雑な信号から特定の周波数範囲の成分を抽出し、頑健性と可読性を向上させる効果がある。

リズミカルな特徴における記号表現

離散時間系列の解析では、シーケンスを、実用的な記号に変換し解析プロセスを簡略化するケースが多い。その中で、変動係数—CV—はRR間隔の分散度合いを表し、RR間隔の規則性を測定するために使用される:Rピークは心電図でも顕著であるため、RR間隔の特徴はノイズ耐性を持つ。そのため、提案モデルにおける最適化では、空間的な形態的特徴を抽出するために設計されたCNN構造に加え、リズム特徴の記号表現としてCVをネットワークに追加している—これにより、異常なリズムを持つECGはより容易に識別することができる。

結果

このセクションでは、本研究での評価について解説する。

モデル性能

提案手法の性能—下表—から、Sincコンボリューションの性能は標準的なコンボリューションよりも優れている確認された。さらに、同じ構造のCNNと比較して、パラメータが約80%削減されていた。また、リズム変動係数によりモデル性能が1-1.5%向上することが確認された。

リソースの削減

リソースの削減に関する指標として、パラメーターゲイン—下式—を活用した。

ここで、PC:パラメータ数。通常のCNNでは、L—フィルタの長さ—の増加とともにPCが増加する一方、Sinc-convolution層ではPCが常に一定となる;したがって、Lが長いほど、KecNetはPCを減少することができる:KecNetのPCは標準的なCNNに比べて80%減少している。

また、KecNetの分類性能を古典的なCNN—GoogleNet、MobileNet、SqueezeNet—と比較した—下表。その結果、KecNetの分類性能はSqueezeNetやMobileNetsを上回った一方、GoogleNetより低い結果となった;一方、PCの評価では、KecNetはSqueezeNetやMobileNetと比較して約50%、GoogleNetと比較して約80%削減された。

ロバスト性

ここでは、データに白色ノイズを加え、KecNetのロバスト性を調査した:0から60dBの信号対雑音比—SNR—に対するモデル精度の変化を対象とした。

その結果、全モデルの精度は、SNRが高いほど高くなる傾向を示した;一方、SNRが低下すると、提案モデル以外のモデルでは、検出精度が低下していた—そのため、提案手法は従来の CNN よりもロバストであることが示された。

考察

本研究は、リソース制約のあるウェアラブルデバイスの活用を前提としたDLの設計を目的に定め、ドメイン知識に基づく軽量のニューラルネットワーク—KecNet—を構築した。

近年患者数が増加している不整脈疾患に対して、ウェアラブルデバイスによる診断モデルに注目が集まっている一方、これらデバイスにおけるリソース制約から限られた計算資源で精度を向上させることが求められている。本研究では、こうした制約のあるウェアラブルデバイスの活用を想定し、不整脈に対する分類をおこなう学習モデルを提案した。このモデルの特徴は2つある:物理的に解釈できるSinc-convolutionalの導入・CNNにおけるパラメータ数を削減;リズム変動係数をネットワークに付加—Shallow-CNNにおける相関のある特徴量を明確化・ネットワーク性能と臨床的有用性の向上。評価結果として、ECGデータを用いたMIT-Bih不整脈データセットで学習とテストをおこなった:ACC、SEN、PREはそれぞれ99.31%、99.45%、98.78%、という結果になった。また、ニューラルネットワークのサイズを小さくし、ノイズに対する頑健性が向上したことを確認した。

一方、課題として、下記の点が挙げられる:実データによる検証の必要性;ウェアラブルデバイスにおけるECGの導入。本研究では、データベースから取得したデータセットをもとに、評価をおこなった—そのため、実臨床現場での有効性が不明瞭な点がある。そのため、今後は、実際の患者から心電図記録を収集し、アノテーションを行い、より多くの種類の疾患の分類をターゲットにする必要がある。また、ウェアラブルデバイスにおいて、現在、ECGを搭載・導入した事例は限られているため、これらに搭載可能な心電計システムの開発、テスト、性能向上などをおこなう必要がある。

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