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自宅で不整脈が予測できる!?ウェアラブルデバイスを活用した不整脈診断システムの開発!

自宅で不整脈が予測できる!?ウェアラブルデバイスを活用した不整脈診断システムの開発!

medical

3つの要点
✔️ 生活習慣病をはじめとする慢性疾患の中でも死亡リスクの高い心房細動は、15~30%の患者において無症状のまま進行する特徴がある。
✔️ 本研究では、組み込み型ウェアラブルデバイスおよび心電図データ—Electrocardiogram: ECG—を利用し、不整脈の分類をおこなう深層学習モデルを開発。
✔️ 評価の結果、提案手法では1/10000の圧縮率—743MBから76KB—を達成し、また、診断精度は圧縮前後でほぼ不変であった。

Compressed Deep Learning to Classify Arrhythmia in an Embedded Wearable Device
written by Kwang-Sig LeeHyun-Joon ParkJi Eon KimHee Jung KimSangil ChonSangkyu KimJaesung JangJin-Kook Kim, Seongbin JangYeongjoon GilHo Sung So
(Submitted on 24 Feb 2022)
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本記事で使用している画像は論文中のもの、紹介スライドのもの、またはそれを参考に作成したものを使用しております。  

背景

ウェアラブルデバイスにより、無症状状態から疾患を防ぐことは可能なのか?

本研究では、心室細動における無症状患者に対する高精度な診断を実現するため、ウェアラブルデバイス・心電図—Electrocardiogram: ECG—を活用した、不整脈の分類モデルの構築を目指す。

近年、患者数が増大し続け、高い死亡リスクを持つ心疾患において、リスク低減の必要性が指摘されている—特に、死亡者数の大半を占める不整脈では、1990~2010年の間に大きな増加傾向が指摘されている。こうした不整脈のうち、30%程度の患者では、無症状のうちに病態が進行する特徴が報告されている—そのため、不整脈の死亡リスク低減するために、無症状状態からの診断が必要とされている;一方、症状のない患者にとって、自覚症状がないため来院する機会は極めて少なく、医療機関における診断をおこなうことが困難である、ことが指摘されている。こうした背景から、現在広く普及しているウェアラブルデバイスを活用し、来院せずに診断をおこなう技術に注目が集まり、深層学習をはじめとするアルゴリズムを活用した研究が報告されている。こうしたデバイスの活用にあたり、計算量をはじめとするモデル性能に対する制約があり、モデルの圧縮が必要な可能性が高い一方、モデル圧縮に焦点を当てた研究報告は、ほとんど存在しない。

本研究では、組込み型ウェアラブルデバイスにおけるECGデータおよび不整脈分類に合わせた、モデル圧縮を想定した深層学習手法の構築を目指した。具体的には、転移学習モデルである、ResNetおよびMobileNetを用いて、モデル圧縮による計算量の低減および高精度な診断技術の確立を実現することを目指す。

ウェアラブルデバイスとは?

初めに、本研究の解析対象である、ウェアラブルデバイスについて簡単に解説する。

ウェアラブルデバイスは、被験者が実際に身に着けて使う情報機器の総称を指す。ウェアラブルは、着用できる・身に着けられる、という意味で、リストバンド・腕時計型、眼鏡型などが存在する。これらの機器は、実際に着用することができるため、運動中から入浴中、睡眠中など日常生活の多くの場面で利用できる—ジョギングやスイミングなどといった運動記録や、心拍や脈拍、睡眠時間などを捕捉して健康情報を取得することに有効である、と考えられる。

手法

データセット

本研究で活用されるECGデータは、Korea University Anam Hospital—韓国ソウル—から、28,308人のユニークな患者—15,412人の正常と12,896人の不整脈—を対象とした。また、28,308人の患者のうち、80%、10%、10%を、トレーニングセット、バリデーションセット、テストセットとして使用した。

提案モデル

本研究では、組み込み型ウェアラブルデバイスの不整脈診断のために、2つの学習モデル—Resnet・Mobilenet—を適用し、TensorFlow Liteを活用してモデル圧縮したのち、比較をおこなった—下図参照。

ResNetは、勾配消失の課題を解決するために残差学習を活用し、Mobilenetは、組込みデバイスにおける効率性を向上させるモデルである—深さ・点方向の畳み込みにより、入力画像とチャンネル数を縮小する。また、TensorFlow Liteは、組み込みデバイスでオリジナルのTensorFlowの圧縮と推論をおこなうライブラリである:具体的なプロセスとして、学習後、TensorFlow Liteでモデルを圧縮し、これらの推論を組込み機器で実行する。モデル圧縮では、枝刈り、量子化、クラスタリング、低ランク近似—低ランクによるフィルタの近似—、などを実行する。

結果

このセクションでは、本研究でおこなった評価について、推定精度・消費メモリ、の観点から述べる。

推定精度

推定精度の評価として、Resnetと、提案モデル—圧縮後のResnet—を、モデルのウェイトサイズ—計算量—と性能—推定精度—から比較した—下表参照:圧縮モデルのウェイトサイズは743MB、から76KB—約1/10000—に減少し、性能はオリジナル—圧縮前—とほぼ同じであった。

また、ResnetとMobilenetについて、性能指標で比較した—下表参照。この結果から、Resnet-50Hz—97.3—とMobilenet-50Hz—97.2—、 Resnet-100Hz—98.2— とMobilenet-100Hz—97.9—となり、両モデルは精度に関してほとんど同じであった:50Hz/100Hzはダウンサンプリングレート、を示す。

消費メモリ

ResnetとMobilenetを、FLASHメモリ、SRAMメモリ、ランダムアクセスメモリーから比較した—下図参照

その結果、前者のモデルの方がより多くのフラッシュメモリを消費していることを確認した:Resnet-50 Hz (168.3 KB) ・Mobilenet-50 Hz (146.9 KB);Resnet-100 Hz (170.3 KB) ・Mobilenet-100 Hz (148.9 KB)—結果として、Resnet-100 Hzがより多くのフラッシュメモリを消費している;一方、ランダムアクセスメモリーでは、その逆となった:Resnet-50 Hz (92.2 KB) ・Mobilenet-50 Hz (109.0 KB),;Resnet-100 Hz (104.1 KB) ・Mobilenet-100 Hz (156.3 KB) (Figure 5c)。また、ResnetはMobilenetよりも推論時間が長いことが示された:Resnet-50 Hz (298.23 ms) ・Mobilenet-50 Hz (149.72 ms), Resnet-100 Hz (603.62 ms) ・ Mobilenet-100 Hz (298.95 ms) 

これら結果から、組み込み型ウェアラブルデバイスにおける不整脈を分類モデルとしてResNetと比較し、Mobilenetがより効率的なモデルである、ことが推察される。

考察

本研究では、ウェアラブルデバイスを想定した、ECGおよび深層学習に基づく、不整脈の分類モデルを提案した。不整脈での課題であるリスクの高い無症状患者に対する診断として、ウェアラブルデバイスを活用した不整脈の診断技術に注目が集まる一方、通常の学習モデルでは、組み込み型ウェアラブルデバイスのメモリでは不十分である可能性が高い、ことが指摘されていた。そのため、本研究では、組込み型ウェアラブルデバイスでの活用を想定し、モデル圧縮を用いた効率的な深層学習アルゴリズムを開発した。提案モデルでは、Mobilenetのアーキテクチャーに基づき、入力画像のサイズやチャンネル数を削減しモデルの軽量化を実現する設計をおこなった。評価結果では、25マイクロ秒の推論時間において97.78%の精度を達成した。また、モデルに対する圧縮率として、1/10000—743MBから76KB—を達成していた。

本研究の特徴は、ウェアラブルデバイスを想定した効率的・高精度な診断を可能にするモデルの開発に焦点を当てている点である。関連研究では、不整脈の分類モデルとして、畳み込み・リカレント層を組み合わせた学習モデルが提案され、MIT-Bih不整脈データベースから、正常と不整脈のアンダーサンプリングしたアルゴリズムなどが報告されている;一方、これら先行研究の多くは、PC上のシミュレーション環境でおこなわれ、組み込み型ウェアラブルデバイスの実導入について考察した事例はほとんどない。本研究では、心電図データを利用し、組み込み型ウェアラブルデバイスで不整脈を分類することを想定し、モデル圧縮を用いた効率化および高精度の両立を実現できるアルゴリズムの構築について調査したことが長所として考えられる。

一方、本研究の課題として、下記のような点が挙げられる:ECGにおける標準化の必要;調査対象以外のアルゴリズム—i.g. 強化学習—の考慮。本研究で用いられているECGでは、現在、診断基準の標準化が課題として挙げられる—心電図解釈に関する臨床医は、心電図解釈において意見が異なる可能性があるため、統一的な見解を定める必要がある。この点については、デバイスの普及とともに、標準化が促進することが想定される。また、検討すべき関連アルゴリズムとして、強化学習が考えられる。本研究のようにウェアラブルデバイスの活用を想定した場合、モデルサイズ、推論時間、消費電流などの制約を考慮する必要がある—そのため、こうした制約を鑑みた中で、最適な学習モデルの導出をおこなうことが有効である。本研究の評価では、ResnetとMobilenetを検討したが、ウェアラブルデバイスの性能、モデルサイズ、推論時間、消費電流などによっては、著しく性能が低下する可能性も高い—そのため、こうした制約がある中で、組み込み型ウェアラブルデバイスの学習モデルを最適化できるRLの導入が有効である、と考えられる。

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