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NAVERが開発!韓国語に特化した大規模言語モデル「HyperCLOVA X」

NAVERが開発!韓国語に特化した大規模言語モデル「HyperCLOVA X」

Large language models

3つの要点
✔️ 韓国語と韓国文化に注力し、他の言語でも高い性能を発揮する大規模言語モデルHyperCLOVA X」を開発
✔️ 韓国語と英語での推論や問題解決、クロスリンガル推論や機械翻訳で優れた多言語能力を発揮
✔️ 安全性と倫理性を重視した開発により、社会的バイアスなどに対処し、安全で信頼できるAIアシスタントを実現

HyperCLOVA X Technical Report
written by Kang Min Yoo, Jaegeun Han, Sookyo In, Heewon Jeon, Jisu Jeong, Jaewook Kang, Hyunwook Kim, Kyung-Min Kim, Munhyong Kim, Sungju Kim, Donghyun Kwak, Hanock Kwak, Se Jung Kwon, Bado Lee, Dongsoo Lee, Gichang Lee, Jooho Lee, Baeseong Park, Seongjin Shin, Joonsang Yu, Seolki Baek, Sumin Byeon, Eungsup Cho, Dooseok Choe, Jeesung Han, Youngkyun Jin, Hyein Jun, Jaeseung Jung, Chanwoong Kim, Jinhong Kim, Jinuk Kim, Dokyeong Lee, Dongwook Park, Jeong Min Sohn, Sujung Han, Jiae Heo, Sungju Hong, Mina Jeon, Hyunhoon Jung, Jungeun Jung, Wangkyo Jung, Chungjoon Kim, Hyeri Kim, Jonghyun Kim, Min Young Kim, Soeun Lee, Joonhee Park, Jieun Shin, Sojin Yang, Jungsoon Yoon, Hwaran Lee, Sanghwan Bae, Jeehwan Cha, Karl Gylleus, Donghoon Ham, Mihak Hong, Youngki Hong, Yunki Hong, Dahyun Jang, Hyojun Jeon, Yujin Jeon, Yeji Jeong, Myunggeun Ji, Yeguk Jin, Chansong Jo, Shinyoung Joo, Seunghwan Jung, Adrian Jungmyung Kim, Byoung Hoon Kim, Hyomin Kim, Jungwhan Kim, Minkyoung Kim, Minseung Kim, Sungdong Kim, Yonghee Kim, Youngjun Kim, Youngkwan Kim, Donghyeon Ko, Dughyun Lee, Ha Young Lee, Jaehong Lee, Jieun Lee, Jonghyun Lee, Jongjin Lee, Min Young Lee, Yehbin Lee, Taehong Min, Yuri Min, Kiyoon Moon, Hyangnam Oh, Jaesun Park, Kyuyon Park, Younghun Park, Hanbae Seo, Seunghyun Seo, Mihyun Sim, Gyubin Son, Matt Yeo, Kyung Hoon Yeom, Wonjoon Yoo et al. (296 additional authors not shown)
(Submitted on 2 Apr 2024)
Comments: 
44 pages; updated authors list and fixed author names
Subjects: Computation and Language (cs.CL); Artificial Intelligence (cs.AI)

code:

本記事で使用している画像は論文中のもの、紹介スライドのもの、またはそれを参考に作成したものを使用しております。  

概要

大規模言語モデル(LLM)の進化は、特に英語のテキストの理解と生成に焦点を当てています。その結果、英語を巧みに扱う強力な大規模言語モデルは数多く誕生しましたが、これらのモデルは主に北米文化の価値観を反映しているため、非英語言語、特に韓国語を処理する能力には限界があります。韓国語には独特の文化的ニュアンスや地域特有の特性があり、そのままでは対応が難しいのが現状です。

このような課題に応えるために、この論文では「HyperCLOVA X」を発表しています。最強のモデルHCX-Lと軽量モデルHCX-Sが含まれています。これらのモデルは韓国語の言語的および文化的特性に合わせて調整されており、英語を含む他のいくつかの言語も理解し生成する能力を持っています。初期段階では韓国語、英語、プログラミングソースコードデータを均等に混ぜて事前学習し、高品質な注釈付きデータセットを使用して指示調整を行っています。

HyperCLOVA Xの能力は、推論、知識、常識、事実性、コーディング、数学、チャット、指示追従、無害性に関するベンチマークテストを通じて証明されています。韓国語と英語の両方で行われた実験の結果、HyperCLOVA Xは韓国語とその文化に特有の知識を持ち、既存のモデルにはない強力な推論能力を発揮することが明らかになりました。また、厳格な安全ガイドラインを順守しており、他の優れた英語中心の大規模言語モデルと同等の性能を発揮しています。

さらに、HyperCLOVA Xは多言語能力にも優れています。アジアの複数の言語間でのクロスリンガル推論や韓国語と他の主要言語間の機械翻訳においても、最先端の性能を発揮します。特に、韓国語と英語間のクロスリンガル転送が効果的に行われ、一つの言語での指示調整が他の言語での指示追従能力の向上に寄与します。

この大規模言語モデルの開発は、NAVER AIによる倫理原則に基づき、安全性を重視して行われているとしています。また、レッドチーミングや安全データ収集プロセスを用いて、有害や毒性のあるコンテンツの生成リスクを監視し軽減する評価も実施したとしています。

HyperCLOVA Xは、韓国語だけでなく他の言語においても高い性能を持つことで、地域や国が独自の言語モデルを開発するための貴重なガイダンスを提供します。この取り組みは、国連が推進する「安全、安心、信頼できる」AIシステムの実現にも貢献するものです。

この論文は、HyperCLOVA Xについて、学習プロセス、主要なベンチマーク評価、多言語能力のデモンストレーション、開発プロセスと安全性の懸念、将来の方向性など、非常に広範囲なレポートを提供しています。この記事では、その一部をご紹介します。

学習方法-事前学習

HyperCLOVA Xは、韓国語とその文化に特化した大規模言語モデルで、英語やプログラミングコードでも優れた性能を発揮します。HCX-L(大型モデル)とHCX-S(小型モデル)の2つのバリエーションがあり、最初に韓国語、英語、コードデータで事前学習されています。事前学習後は、教師あり微調整(SFT)や人間のフィードバックによる強化学習(RLHF)によって、その指示追従能力が強化されています。

まず事前学習のプロセスについてです。HyperCLOVA Xは、HyperCLOVA(Kim et al., 2021)の更新版であり、いくつかの改良を加えたトランスフォーマーデコーダーアーキテクチャ(Vaswani et al., 2017)に基づいています。文脈の長さを増やすため、回転位置埋め込み(Su et al., 2024)を採用し、学習の安定性と効率を向上させるために事前正規化(pre-normalization)とグループ化クエリ注意(grouped-query attention、Ainslie et al., 2023)を使用しています。 

事前学習データは、韓国語、多言語(主に英語)、およびコードセグメントで構成されています。多言語データには日本語、ドイツ語、フランス語なども含まれます。特に韓国語のデータを強化し、全体の約3分の1を占めるようにしています。データはさまざまなソースから収集し、繰り返しや低品質なドキュメント、ヘイトスピーチや広告を含むドキュメント、個人情報(PII)をフィルタリングしています。さらに、知識を含むデータをアップサンプリングして大規模言語モデルの性能を向上させています。

効果的な韓国語中心の大規模言語モデルを設計するための鍵となるのは、優れたトークナイザーの準備です。韓国語は膠着語であり、形態素の組み合わせで単語が形成されます。これを反映して、語彙サイズ100,000の形態素対応バイトレベルBPE(Sennrich et al., 2015)を学習しています。このトークナイザーは、大規模言語モデルの性能と推論コストに大きな影響を与えます。HyperCLOVA Xのトークナイザーは、韓国語のドキュメントを効率的にトークナイズできるよう設計されています。

左から右への言語生成能力とインフィリング能力を獲得するため、共同PSM&SPM学習(joint PSM & SPM training)を採用しています。このアプローチにより、大規模言語モデルはインフィリングパフォーマンスが向上し、コーディングアシスタントなどのさまざまなアプリケーションに対応できます。学習の90%は文脈長4,096で実行され、残りの10%は32,768で行われています。学習はbf16精度を使用し、フラッシュアテンション(flash attention)と3D並列性(3D parallelism)を用いて実施されています。 

学習方法-アラインメント学習

事前学習された大規模言語モデルを人間の意図や価値観に合わせることは、AIアシスタントとしての適用において重要です。HyperCLOVA Xの学習には、SFT(教師あり微調整)とRLHF(人間のフィードバックによる強化学習)という2つのアラインメント技術が用いられます。

アラインメント学習の第一段階はSFTです。この段階では、事前学習されたHyperCLOVAが各プロンプトに対して最適な応答を生成するように学習されています。SFTにより、モデルの指示追従能力や、コーディングやクリエイティブライティングなどのタスク解決能力が向上します。また、常識から科学、倫理まで、幅広い分野の知識を活用できるようになります。

SFTデータセットでは、ユーザーとアシスタントのターンを区別するために、'<<user>>'、'<<assistant>>'、および'<<end>>'という特別なトークンを定義しています。これにより、文脈内の各役割が明確に区別されます。マルチターンサンプルのトレーニングでは、アシスタントのターン以外のテキストにロスマスキングを適用します。

また、ミニバッチ内のパディングを最小限にし、GPUの利用率を最大化するために、類似した長さのシーケンスをグループ化する効率的なバッチング戦略を使用します。各ミニバッチの最大トークン数は一定に保たれますが、ミニバッチのサイズはシーケンスの平均長さによって決まります。

次の段階はRLHF(人間のフィードバックによる強化学習)です。SFT後のモデルは多くのタスクを実行できますが、不正確な出力や有害な内容を生成することがあります。RLHFでは、人間の価値観(有用性、事実性、安全性)に合わせてモデルをさらに調整します。この手法では、人間の好みデータを使用して報酬モデルを学習し、その後、SFT後のモデルをPPO(近接ポリシー最適化)で学習し、報酬モデルが返す報酬を最大化します。

この報酬モデルは、SFT後のモデルとして初期化され、スカラー報酬を出力するランダムに初期化された線形ヘッドを持ちます。Bradley-Terryモデルに基づき、選択された報酬と拒否された報酬の差の負の対数尤度を最小化するランク付け損失で学習されます。報酬モデルは1エポックのみで学習され、過学習を防ぐために比較データの最適化ステップを調整します。

報酬モデルのデータセットは、多様な製品要件に基づいて収集されます。異なるデータソース間での報酬分布の違いは、報酬ハッキングのリスクや学習の難易度を引き起こします。これを軽減するために、推論時に正規化とクリッピングを適用します。

また、強化学習にはPPO(近接ポリシー最適化)を採用しています。報酬にKullback-Leibler(KL)ペナルティ項を0.04の係数で追加し、ポリシーネットワークはポストSFTモデルとして初期化されます。多くの先行研究は、RLHF後に出力の長さが増加することを報告していますが、この論文でもこの現象を観察し、モデルが長いシーケンスを好む傾向があることが分かっています。これを防ぐために、応答の長さや形式を制約する指示セットを使用し、早期停止メカニズムを導入しています。

トランスフォーマーアーキテクチャの特性上、大規模言語モデルは繰り返しに陥りやすいことが知られているため、この問題を解決するために、シーケンスレベルのアンライクリーフッドトレーニング(Unlikelihood Training)をPPOと統合し、繰り返しを効果的に減少させています。

PPOフェーズでは、SFTと比較して4倍のモデルが必要であり、それぞれが各イテレーション内で順次動作します。このプロセスを最適化するために、各モデルのデバイスをマルチノード設定で分割し、非同期処理を実装してトレーニング時間を短縮し、効率を向上させています。

アラインメント学習には、同期および非同期のさまざまなフェーズがあります。これらのワークフローを自動化するために、イベント駆動型パイプラインを導入し、人的リソース、計算リソース、時間の観点からプロセスを最適化します。例えば、中間チェックポイントでの評価を自動化し、学習時間を短縮しています。 

また、SFT、RM、PPO学習プロセスを自動化し、人的介入を減らします。トレーニングはNAVERの高性能コンピューティングシステムであるNAVER Smart Machine Learning(NSML)上で実行されます。メタデータは社内の機械学習運用ツールで安全に保存・共有され、MLflowを使用して効率的に分析されます。

ベンチマーク

大規模言語モデルの性能を客観的に評価するためには、さまざまな品質に沿った多くのベンチマークが提案されています。ここでは、HyperCLOVA Xのコアベンチマークでのパフォーマンスについて整理しています。

多言語言語モデルの評価において、英語以外の言語に対する包括的な評価フレームワークが不足していることが主な制約とされています。特定の言語の能力には、言語的な熟練度だけでなく、その言語の話者に特有の文化的および社会的なニュアンスの深い理解が求められます。そこで、この論文では、HyperCLOVA Xのバイリンガルおよび一般的な能力を評価するために、広く認識された英語および韓国語のベンチマークを体系的に使用しています。

推論や世界知識、数学などのコアコンピテンシーは言語を超越するため、これらのスキルを評価するベンチマークの一部は英語で行います。一方、言語固有の質問や文化的ニュアンスを評価するためには、各言語に合わせたベンチマークカテゴリを用います。韓国語の評価では、専門家が細心の注意を払って作成した、または既存の広く認識されたものからキュレーションしたベンチマークを使用します。これには、内部で構築した包括的な韓国語ベンチマーク「KoBigBench(KBB)」や、KMMLU(Son et al., 2024)の韓国語固有の質問セットも含まれています。これにより、モデルの韓国語の文化的および社会的文脈の理解を厳密に評価されています。

HyperCLOVA Xは、韓国語と英語の両方で独自の能力を持つため、直接比較可能なモデルが存在していないため、その多様な能力を評価するために、韓国語に特化した大規模言語モデルや一般的な基盤モデルと比較しています。

韓国語での能力を評価するために、韓国語に特化して設計された大規模言語モデルや、さらに学習された大規模言語モデルを使用しています。例えば、Polyglot-Koは韓国語をターゲットとして構築されたオープンソースの言語モデルです。また、SOLARのチャットバリアントは、LLaMA 2アーキテクチャに基づき、韓国語のデータセットでさらに学習されています。LLaMA 2 Ko 8およびLLaMA 2 KoEn 9も韓国語モデルとして使用されています。KORani 10はPolyglot-KoおよびLLaMA 2からさらに学習された韓国語モデルであり、EEVE-Korean-v(Kim et al., 2024b)はより効率的な韓国語の語彙を拡張したモデルです。

HyperCLOVA Xは、強力な一般的な基盤モデルとも比較しています。FalconやLLaMA 2は、多言語対応や包括的な能力において競争力がモデルとして知られています。 

モデルの知識や推論能力を評価するためには、質問を投げかけて得られた回答を分析します。評価アプローチは主に2つあります。

1つは、オープンエンドの質問応答アプローチでは、自由形式の回答を生成させ、正解と一致するかどうかを確認します(例:BigBench-Hard)。もう1つは、クローズドフォームの質問応答で、与えられた候補の中から1つ以上の回答を予測させます(例:MMLU)。 

自由形式の回答生成は比較的簡単ですが、候補選択には指示追従能力や少数ショットの文脈内例が必要です。複数選択の問題を尤度テストとして再構成することもありますが、プロンプトの感度に影響されやすく、微細な変化でスコアが変動することがあります。これを減らし、評価の信頼性を高めるために、ベンチマークの意図に沿った実際の複数選択形式でプロンプトを提示します。 

HyperCLOVA Xと他の主要なオープンソースの大規模言語モデルの性能比較は、韓国語と英語のテストを組み合わせた幅広いベンチマークで行われており、。HyperCLOVA Xファミリーの中で最も大きなモデルが表示されています。評価の結果、HyperCLOVA Xは韓国語の包括的なベンチマークで他のすべての韓国語に特化したモデルを大幅に上回る性能を示しています。さらに、英語に焦点を当てたベンチマークでも最大のLLaMA 2モデルに匹敵する性能を発揮しました。全体として、HyperCLOVA Xは韓国語と英語の両方を含むバイリンガル環境において、優れた能力を持つ大規模言語モデルであることが証明されています。

韓国語の理解力を多角的に評価するために、以下のベンチマークを使用します。

  • KoBigBench (KBB)
    • KoBigBenchは、韓国語に特化した総合的なベンチマークで、BigBench(Srivastava et al., 2022)をベースにしています。このベンチマークは、法学、歴史、数学、コンピュータサイエンスなどの分野にわたる知識探査タスクや、常識推論、バイアスを含むタスクをカバーしています。
  • KMMLU
    • KMMLU(Korean Massive Multitask Language Understanding)は、韓国語での大規模マルチタスク言語理解を測定するために開発されました。45の科目にわたる35,030のエキスパートレベルの選択式質問で構成され、韓国語の言語的および文化的側面を捉えることができます。評価はオリジナルの設定(5ショット)に従い、一部の評価は内部で実施しています。
  • HAE-RAE Bench
    • HAE-RAE Benchは、韓国の文化的および言語的知識を評価するために設計されたベンチマークです。語彙、歴史、一般知識、読解力の4つの主要分野にわたるタスクで構成されています。ゼロショット問題解決テンプレートを使用し、オリジナルの論文設定に従います。

ベンチマークによる結果は下表の通りです。韓国語に特化したモデルとそうでないモデルの間で顕著な性能差が見られます。特に、社会的文脈の深い理解を必要とするHAE-RAE、KBB、およびKMMLUのベンチマークでその差は大きくなります。これは、言語および地域特化型の大規模言語モデルが成功するためには、対象グループからの大規模かつ高品質なデータの取得が不可欠であることを示しています。

また、英語の理解力を評価するために、以下のベンチマークを利用しています。

  • Massive Multi-Task Language Understanding (MMLU)
    • MMLU(Hendrycks et al., 2020)は、57の現実世界の科目を対象としたベンチマークで、広範な知識と問題解決能力を評価します。5ショットの例示スキームを使用しています。
  • BigBench-Hard (BBH)
    • BIG-Bench(Srivastava et al., 2023)の一部であるBBHは、特に難易度の高い23のタスクで構成されています。各タスクごとに3ショットの例を使用し、推論の連鎖なしで基礎モデルの反応を引き出しています。
  • AGIEval
    • AGIEval(Zhong et al., 2023)は、大学入試や弁護士資格試験などの標準化試験を使用してモデルをテストします。0ショットの例を使用し、複数選択形式の英語サブセットを利用しています。 

ベンチマークによる結果は下表の通りです。HCX-LとLLaMA 2ファミリーの最大モデルとの性能差はほとんどありません。平均スコアも非常に近くなっています。HyperCLOVA Xは、中間推論ステップを使用することで、問題解決能力が向上します。チェーン・オブ・ソート(CoT)を採用すると、HCX-LのMMLUスコアは1.87ポイント向上し、69.78に達しています。自己一貫性のある推論チェーンを10回サンプリングすることで、スコアは70.79に達しました。対照的に、LLaMA 2 70bにCoTを適用すると、MMLUスコアは2.62ポイント減少しています。

また、英語による常識推論および理解能力を評価するために、以下のベンチマークを使用しています。

  • HellaSwag
    • HellaSwag(Zellers et al., 2019)は、常識的な能力を評価するための一般的なベンチマークです。言語モデルに対して、いくつかの候補オプションから普通の文を完成させるように求めます。人間には簡単に思える問題でも、モデルには難易度が高い場合があります。問題を複数選択形式にし、5ショットの例を使用しています。
  • Winogrande
    • Winogrande Scheme Challenge(WSC)(Sakaguchi et al., 2021)は、クローススタイルの代名詞解決問題のセットです。これらの問題は、常識推論の能力を評価するために特別に作成されています。単純な単語の関連付けに頼るアプローチとは異なり、Winograndeは深い推論が必要です。ベンチマークは二者択一の質問で構成されており、評価プロトコルでは5ショット学習アプローチを使用しています。
  • PIQA
    • Physical Interaction Question Answering(PIQA)ベンチマーク(Bisk et al., 2020)は、物理的な常識推論をテストします。このタスクでは、モデルに対して物理的な世界に関する質問に答えさせます。トレーニングおよび検証セットがないため、評価プロトコルでは0ショット学習スキームを使用しています。
  • AI2 Reasoning Challenge(ARC)
    • ARC(Clark et al., 2018)は、常識推論を評価するための一般的なベンチマークです。データセットは、小学校レベルの質問と解答で構成され、簡単なものと難しいものの二種類があります。評価プロトコルでは、両方のサブセットを使用し、ベースモデルと公正に比較するためにプレフィックスマッチングスキームを採用しています。
  • CommonsenseQA(CSQA)
    • CommonsenseQA(Talmor et al., 2019)は、単純な単語の関連付けではなく、事前の常識知識を利用して正しい答えを予測する必要がある質問応答データセットです。評価プロトコルでは、信頼性の高い評価を行うために5ショットの例を使用しています。

常識推論能力の結果は下表の通りです。特にWinograndeとCSQAのパフォーマンスは注目に値します。これらは表面的な単語の関連付けを排除し、世界や常識の深い理解を必要とします。一方、SOLARおよびEEVEは、Mistral(Jiang et al., 2023)バックボーンからさらに学習されており、HellaSwagと物理的な相互作用における常識推論で優位性を示しています。 

さらに、言語モデルが持つ知識を評価するために、以下のベンチマークを使用しています。

  • Natural Questions(NQ)
    • Natural Questions(Kwiatkowski et al., 2019)は、実際の検索エンジンのクエリから収集されたオープンエンドの質問集です。各質問には複数の候補回答があり、その中の1つを特定できれば正解とみなされます。指示データセットで訓練されていないベースモデルでも評価できるように、プレフィックスマッチング評価方法を採用し、5ショットの例を使用しています。
  • TriviaQA
    • TriviaQA(Joshi et al., 2017)は、60万以上の質問と回答および証拠のトリプルで構成された大規模な読解理解データセットです。最近の評価では、文脈なしで質問と回答のペアを使用して言語モデルの知識をテストします。このベンチマークは、世界中のさまざまな事実に関する質問を含むため、モデルの知識容量を評価するのに適しています。5ショットおよびプレフィックスマッチを使用し、指示なしモデルもベースラインとして含めます。
  • CLIcK
    • この新しいデータセット(Kim et al., 2024a)は、韓国語の言語および文化的知識を評価するために設計されています。韓国の大衆文化、政治、伝統に関連するカテゴリーをキュレーションし、ゼロショット設定で評価します。
  • Factscore
    • Factscore(Min et al., 2023)は、特定の人物の伝記など、与えられたエンティティに関する事実情報を生成する能力を評価します。HyperCLOVA Xと他のLLMを使用して、英語および韓国語データセットで事実性の分析を行いました。韓国語のFactscoreを測定する際には、プロンプトの翻訳や、韓国のWikipediaデータセットの使用が必要です。このデータセットは、包括的なドキュメントのみを含むようにキュレーションされています。

ただし、ベースモデルや低性能な大規模言語モデルは、出力の終わりに同じ文を繰り返すことがよくあります。内容の品質を確保するために、これらの繰り返しを即座に削除します。また、大規模言語モデルが無意味な単語を生成した場合、それは適切な応答を提供できなかったとみなされます。モデルが韓国のWikipediaタイトルについて英語の説明を生成した場合、その出力を翻訳してFactscoreを計算してます。

結果は下表の通りです。NQ、TriviaQA、CLIcKのサブセット、および韓国のWikipediaデータセットから得られたFactscoreを使用して測定されたHyperCLOVA Xの評価結果が示されています。NQおよびTriviaQAデータセットが英語圏のコミュニティから収集されたため、HyperCLOVA Xは西洋文化の知識が不足していることが顕著に見られます。KORaniやEEVEなどの韓国語モデルは、英語中心のベースモデル(MistralおよびLLaMA 2)からさらに学習されているため、影響が少なくなっています。

LLaMA 2やpolyglot LLMは、韓国や他のアジアの人物の伝記に関する信頼性のある説明を提供する能力に限界があります。一方、HyperCLOVA XモデルおよびEEVE-Korean-v1は、与えられたエンティティに関する情報を正確に伝える能力が高いことを示しています。この結果は、韓国語データセットにおけるHCX-Lモデルの事実生成能力が他のベースラインモデルと比較して優れていることを示しています。

翻訳出力を使用する場合、スコアにはアスタリスク(*)を付けています。

まとめ

HyperCLOVA Xは、大規模言語モデルの分野で重要な進歩を遂げています。特に韓国語と韓国文化に重点を置きながらも、英語や他の言語でも高い能力を維持しています。韓国語、英語、プログラミング言語をバランスよく組み合わせた学習プロセスを経て、SFT(Supervised Fine-Tuning:教師あり微調整)とRLHF(Reinforcement Learning from Human Feedback人間のフィードバックによる強化学習)を行うことで、HyperCLOVA Xは多様なタスクで優れた能力を発揮しています。

HyperCLOVA Xは、韓国語と英語での推論、コーディングや数学の問題解決など、幅広いベンチマークで高い性能を示しています。また、特にクロスリンガル推論や機械翻訳において優れた多言語能力を持ち、多様な言語環境での汎用性と適用可能性を示しています。さらに、責任あるAI開発と展開への取り組みが、安全性評価と倫理原則の遵守を通じて示されています。毒性や社会的バイアスなどの倫理的な問題を高度に処理し、体系的なレッドチーミングや安全データ収集プロセスを通じて、HyperCLOVA Xは安全で信頼性のあるAIアシスタントとしての潜力を示しています。全体として、HyperCLOVA Xはバイリンガルおよび多言語大規模言語モデルの新しい基準を設定し、より包括的で文化的に配慮したAI技術の可能性を示しています。

この論文では、今後の課題としては、マルチモーダル性の探求し、テキスト、画像、音声などの多様なデータタイプをシームレスに処理および統合する能力を拡充することを目指しているとしています。また、モデルの量子化技術の有効性を探り、精度や出力の品質を損なうことなくHyperCLOVA Xの推論を最適化することを目指しているとしています。

外部ツールやAPIの統合を積極的に研究することで、HyperCLOVA Xは、専門的なデータセットやサービスにもアクセスすることができ、その回答の事実性を大幅に向上させることができると期待されます。

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インターネット広告企業(DSP、DMP etc)や機械学習スタートアップで、プロジェクトマネージャー/プロダクトマネージャー、リサーチャーとして働き、現在はIT企業で新規事業のプロダクトマネージャーをしています。データや機械学習を活用したサービス企画や、機械学習・数学関連のセミナー講師なども行っています。

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