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生成AIを異分野の研究に応用できるか?

生成AIを異分野の研究に応用できるか?

ChatGPT

3つの要点
✔️ 情報工学以外の研究領域,特に社会心理学において、ChatGPTなどの生成AIをいかに使用できるか、利点と限界点を検証した論文
✔️ 既存の社会心理学の理論と結びつけるための理論的枠組みの重要性を主張
✔️ 社会心理学研究におけるチャットボット利活用のためのガイドラインを紹介

May the force of text data analysis be with you: Unleashing the power of generative AI for social psychology research
written by Mohammed Salah, Hussam Al Halbusi, Fadi Abdelfattah
(Submitted on 19 July 2023)
Comments: Published on Science Direct.

本記事で使用している画像は論文中のもの、紹介スライドのもの、またはそれを参考に作成したものを使用しております。  

導入

これまで、研究者は手作業によるデータ分析やサンプルサイズの問題に苦悩してきましたが、生成AIを用いることで大量のテキストデータの分析や社会的インタラクションのモデル化が可能になると予想されます。

しかしながら、生成AIを研究に使う際には、倫理的、理論的、方法論的な課題が存在しています。本論文では、これらを概観し、利点と限界点を検証します。

また、生成AIを既存の社会心理学の理論と結びつけるための枠組みの重要性について議論し、研究者がこれらのツールを効果的に利用するガイドラインを紹介します。

社会心理学研究におけるChatGPTの応用例

すでにいくつかの研究では、ChatGPTを採用していると言います。

例えば、[Aydin & Karaarslan, 2022]は、ChatGPTに集団でのオンライン会話をシミュレートさせ、社会的影響力や集団の意思決定がどのようなダイナミクスで生じるかを探索するという研究を行なっています。

また、[Haluza & Jungwirth, 2023]は、ソーシャルメディアのデータを分析し、政治キャンペーン期間中の情報の広がり方に対して、感情的な表現がどのように影響するかをChatGPTを利用して解析しています。

[Mariani, et al., 2022] は、AIが消費者行動に与える影響について包括的なレビューを行い、購買決定や意見の形成に影響を与える可能性があることを述べています。加えて、AIの誤用やプライバシー、格差の問題への注意喚起を行い、AIの導入には倫理的に責任あるアプローチが必要であることを主張しています。

社会心理学研究を増強するための生成AIの活用について

どのようにChatGPTを人間の行動や社会現象の理解に使えるかを示します。

(1)社会的インタラクションのモデル化
(2)大規模テキストデータの解析
(3)社会的行動を生み出す認知プロセスの理解

の3つの観点から説明します。

(1)社会的インタラクションのモデル化について

ChatGPTは、情報交換から複雑な対話まで、様々な社会的インタラクションをシミュレートすることができます。これらの人工的なインタラクションは、人間の対話のダイナミックな性質を反映したものであり、社会心理学の様々な側面を調査するための土壌として機能しうるものです。

AIが生成する対話は、汎用性と拡張性という特徴を持っています。つまり、ChatGPTは幅広い意見や信念、態度を持ったキャラクター同士の対話を生成することができます。これによって、研究者は統制されたシナリオでの対話例を手に入れることができます。これは、実世界ではなかなかに難しいものなのです。さらに、これらの対話は複製も変更も可能であるため、パラメータの一貫性を損なうことなく、大規模な研究に利用することができます。

AIが生成する対話の軌跡を時間方向に追跡し、それらの変化のダイナミクスを理解することによって、多数意見や反対意見など、社会的影響力を持つ要素がどのようなものかについて調査することができます。

例えば、少数派が多数派の意見を動かすためにどのような戦略を取るべきかなど、これまでなかなか調べられなかった事柄をシミュレーション上で調査することができるようになるわけです。

(2)大規模テキストデータの解析について

ChatGPTを使うことでこれまで扱いきれなかった膨大な量のテキストデータを分析することができるでしょう。これによって、これまでとは異なる高次元な分析が可能になります。

ソーシャルメディアなどで得られた膨大なテキストデータから、特定の考え方がどのように広がっていくのか、異なるコミュニティが特定の出来事にどのように反応するのかなど、様々なことを調査できます[Hassan et al., 2022; Pellert et al., 2023]。

これらによって、既存の社会心理学の理論をより豊かなものにすることができ、さらに強固なモデルを提唱することができます。

また、ソーシャルネットワークの全体像を分析することもできるでしょう。そうすることで、フェイクニュースやヘイトスピーチの問題を調査することもできます。

(3)社会的行動を生み出す認知プロセスの理解について

ChatGPTはテキストデータから、言語使用や、センチメント(感情)、感情表現のパターンを分析することができます。例えば、オンライン上のレビューやソーシャルメディアの投稿におけるテキストデータの感情分析をすることで、意思決定や社会的インタラクションにおける感情の影響を調査することができます[George & George, 2023]。

このような活用によっても、ChatGPTは社会心理学の研究領域を拡張させてくれるでしょう。

以上のように、ChatGPTなどの生成AIを使用することにより、データ分析の精度や効率の向上といった点で社会心理学研究を大きく前進させることができるでしょう。

ChatGPTを使用することの倫理的側面

ChatGPTの利用は多くのメリットがある一方で、倫理的な課題や限界点も認識しておく必要があるといいます。例えば、AIモデルによって生成されたテキストには、学習データに内在するバイアスが現れる可能性があります[Mehrabi et al., 2021]。これは、研究結果の公平性や妥当性を損ないかねません。

また、社会心理学においてAIを利用するときには、企業のCorporate Digital Responsibility (CDR) アプローチを採用するのが良いでしょう。これは、組織がデジタル技術に関する4つのプロセス(技術の創造とデータの取得、運用と意思決定、検査と影響評価、技術の改良)をどのように扱っていくかを規定する規範のことです。これに従って、生成AIの出力したテキストを厳密に評価し、バイアスや不正確な情報を防ぐことが求められます。

また、ディープフェイクやhallucination(ChatGPTが非常に説得力のある嘘を述べる現象)も重大な問題であると言われています。したがって、生成AIが作り出した嘘の説明に安易に従ってしまうと、研究における社会現象の理解に大きな誤解を生じさせてしまいかねません。

社会心理学研究におけるChatGPTの使用はまだ初期段階であり、今後方法論が整備されるとともに、研究者は倫理的な問題点を認識する必要があります。

今後の可能性について

この節では、ChatGPTを社会心理学研究のツールとして活用する手法について、網羅的に述べていきます。

テキストデータの高速かつ効率的な生成・分析

これは、ソーシャルメディアの投稿など膨大なテキストデータの分析に大変有効です。

社会現象に対する新しい洞察

ChatGPTを使用して、オンライン会話など、人の社会的インタラクションをシミュレートすることによって、社会現象の洞察を得ることができます。

ソーシャルデータのパターンやトレンドの特定

ChatGPTは大規模なテキストを分析することができるため、手作業では難しいソーシャルデータの分析が可能となります。それによって、社会的、政治的問題に関する世論の調査など、トレンドの特定が可能になるでしょう。

データ分析精度の向上

ヒューマンエラーの起こりやすい作業を、ChatGPTによって自動化することができます。具体的には訂正的なデータを自動で分類することができるため、評価者のバイアスの影響をなくすことができたりします。

データ分析の効率化

データ分析にかける労力や時間を減らすことができます。それによって、研究者は他の仕事に集中することができるでしょう。

研究参加者との自然言語での対話の促進

参加者と研究者の対話をシミュレートすることができるので、より優れた調査の設計を行うことができるでしょう。

正確な行動予測の支援

ソーシャルデータのパターン分析などによって、より正確な行動予測が可能になるでしょう。

現状の生成AIの課題と制約

次は、社会心理学研究にChatGPTなどの生成AIを使用する際に注意すべき課題や制約について、網羅的に挙げていきます。

学習データから生じるバイアスの問題

これは先にも述べました。バイアスが生じることを認識し、できるだけ取り除くよう努める必要があります。

社会的文脈の解釈の限界

社会的文脈を完全に理解する能力はまだありません。従って、皮肉や文化固有のサインなど、ニュアンスを捉えることはできないのが現状です。これらの側面も、認識しておく必要があります。

創造性

ChatGPTは人間の創造性や直感に関連するような研究にはまだ使用できないかもしれません。

ブラックボックスの問題

ChatGPTのようなAIモデルは内部の処理を把握できないブラックボックスのモデルとなっています。このように透明性が欠如していることによって、生成されたテキストの正確性や信頼性、バイアスの評価の問題が複雑化してしまっています。

誤情報

ChatGPTのようなAIモデルが生成するデータは、もっともらしいようではあるが、実は誤った情報であることも多いです。

データの所有権や知的財産の尊重

データの所有権、著作権、知的財産権に関するガイドラインを確立することが求められています。

社会心理学におけるチャットボットの効果的かつ倫理的な展開のためのガイドライン

ここでは、社会心理学者が研究活動において倫理的、効果的にチャットボットを利用する方法について、網羅的に紹介します。

訓練データのバイアスを軽減する

訓練データの慎重な選択、前処理が必要です。また、差別的な内容がないこともチェックするべきです。常に監視を怠らないのが良いでしょう。

社会的文脈の理解を強化する

皮肉や文化的規範などを訓練データに取り入れ、社会的文脈の理解を強化する方法を探るべきでしょう。

アルゴリズムの透明性や解釈可能性の確保

AIシステムの動作、処理プロセスについて、透明性や解釈可能性を高められるように、研究するべきでしょう。

デリケートな話題は慎重に

デリケートなトピックを扱う場合は、よく考えて実験系を組む必要があります。

インフォームドコンセントやプライバシーの優先

実験参加者には、データ収集、保存、分析の手法について、十分に理解してもらうようにしましょう。データ保護対策も強固にしましょう。

生成データの検証

チャットボットによって生成されたデータを、正確性や信頼性の点で厳格に検証しましょう。専門家や実験参加者からのフィードバックなどを使用すると良いでしょう。

透明性や再現性

チャットボットの開発、訓練データ、運用に関しての詳細な情報を提供するべきです。また、研究方法や分析手順を、他の研究者が再現できるように提示するべきでしょう。

倫理ガイドラインやベストプラクティス

研究者は常に最新の倫理ガイドラインやベストプラクティス、技術進歩についていく必要があります。そのためには、専門家との繋がりや会議への参加の機会を活用すると良いでしょう。

まとめ

今回紹介した論文は、ChatGPTなどの生成AIを社会心理学研究に利活用するための方法について、利点や課題、ガイドラインの観点から総合的に教えてくれるものでした。

情報工学以外の分野でも、生成AIをうまく取り入れることで、研究領域を大きく押し広げてくれる可能性があるようです。

今回の記事を通して、業務や研究の遂行にあたってのヒントとなるものを見つけていただけたら、幸いです。

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