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大規模言語モデルを使用して執筆されたコンテンツに対する所有感覚と著作感覚

大規模言語モデルを使用して執筆されたコンテンツに対する所有感覚と著作感覚

Large language models

3つの要点
✔️ 大規模言語モデルによって、生成されたコンテンツに対して個人の所有感覚がどのような影響を受けるかを検証
✔️ 言語モデルが生成したコンテンツに対して、所有感覚著作感覚の心理的葛藤があることを示唆
✔️ デジタル時代の所有権と著作権の概念に関する新たな問題を提起

LLMs as Writing Assistants: Exploring Perspectives on Sense of Ownership and Reasoning
written by Azmine Toushik Wasi, Mst Rafia Islam, Raima Islam
(Submitted on 20 Mar 2024 (v1), last revised 22 Apr 2024 (this version, v3))
Comments: Published on arxiv.
Subjects: Human-Computer Interaction (cs.HC); Artificial Intelligence (cs.AI); Computation and Language (cs.CL); Computers and Society (cs.CY); Machine Learning (cs.LG)

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概要

執筆において、所有感覚(=自分の成果物である感覚)は、私たちの考えた時間や労力で強くなり、作品への愛着を生み出すと言われています。しかし、近年話題になっている大規模言語モデルのような執筆アシスタントを使用すると、一部のコンテンツが自分たちの創作物でなくなってしまうため、自分の作品と言えるのかという葛藤を引き起こすことがあります。

例えば、特に創造的なタスクに大規模言語モデルを利用した場合、大規模言語モデルにとっては創造的なタスクか否かに関係なく、全てのタスクは同等の労力ですが、人は大規模言語モデルの貢献度合いを高く評価します。また、大規模言語モデルが生成したコンテンツを完全に自分のものである(所有感覚)と主張することはあまりありませんが、著者として、自由に権利を主張することができます。

この論文では、調査を通じて、これらの問題を掘り下げ、執筆のタスクを通して、人間とコンピュータの相互作用をより深く理解し、執筆支援システムの改善を目指しています。

所有感覚は、幼少期から私たちの認知と行動に深く根ざしています。これは、個人が特定の物、コンテンツ、資産、または権利に対する権威を持っていることを意味します。また、オーナーやチーム、プロジェクト、組織の一員として感じる責任感などを意味します。これには、法的または形式的な側面を超えた、個人の心理的および主観的な体験です。執筆や創造的なタスクにおいては、作業を完了するために必要な独創性や努力の度合いが所有感覚や著作感覚に直接関係しています。

執筆におけるこれらの感覚は、単にペンと紙を持つこと以上のものです。思考と言葉が深い結びつくことで、私たち自身に投資し、自らのアイデアに対する当事者意識を育んでいます。これは、単にクレジットを主張する以上に、創作物との関係を育てていくプロセスです。ペンのストロークが、私たちのアイデンティティをページ上に表現し、私たちの本質を伝える物語を共有する力を与えてくれます。

ChatGPT、Gemini、Microsoft Copilotのような大規模言語モデルの使用が増えており、それらは教育やビジネスで有効に活用されています。これらは、創造的な物語やエッセイ、学術執筆、法的文章など様々な執筆タスクで効果を発揮しています。大規模言語モデルを活用することで、執筆プロセスは協働のものとなり、人間の入力と機械の生成コンテンツが融合します。これにより、多様な視点やスタイルの探求が容易になり、コンテンツ作成の伝統的な概念が変わるかもしれません。

創造的なタスクでは、私たち人間は強い愛着を感じ、強い所有感覚著作感覚を感じることが多いですが、大規模言語モデルを使用すると、この感覚はどのように変わるのでしょうか?また、大規模言語モデルベースの執筆アシスタントが所有感覚著作感覚の認識にどのような影響を与えるのでしょうか?これらは、特に「剽窃(他人の著作から全部または部分的に文章、図表、語句、話の筋、思想などを盗み、自作の中に自分のものとして用いること)」という広く認識されている問題を考慮すると、非常に重要です。個人が大規模言語モデルのサポートを受けている状況でどのように所有感覚著作感覚を認識するかを理解することは、コンテンツ作成における独自性と帰属の問題に対処する助けとなります。

この論文では、最初に、大規模言語モデルを執筆アシスタントとして使用する際、当事者意識(所有感覚著作感覚の強さはコンテンツの種類によって異なるのかという問題を考えています。創造的タスクと非創造的タスクでは、アイデア生成とストーリー形成への関与度が当事者意識に大きく影響します。大規模言語モデルが自動的にタスクを完了した場合、私たちはその成果に対して少ないクレジットを感じる傾向があります。対照的に、日常的で非創造的なタスクでは、大規模言語モデルとの協働によってより強い貢献感を持つことがあります。

次に、大規模言語モデルベースの執筆アシスタントの使用が所有感覚著作感覚の認識にどのように影響するかを検討しています。技術的には、大規模言語モデルのサポートによりコンテンツの著作者になることができますが、独立して創作した場合と同じような感情的なつながりは感じられないかもしれません。実際には、AIが生成したコンテンツの著作者であると自認しながらも、完全な所有権を感じないことがあります。このような所有感覚著作感覚の不一致は、精神的なジレンマを引き起こすことが考えられます。

これらのニュアンスを理解することは、効果的な執筆アシスタントの開発において重要です。この論文では、これらを包括的に調査するために35人の参加者を対象に調査を行い、彼らの見解を分析しています。この理解を深めることで、ユーザーのニーズに合った、執筆体験を向上させるツールを作成することを目指しています。さらに、これらの複雑さをナビゲートすることが、実生活で大規模言語モデルをより効率的に使用し、創造的プロセスでの貴重な助けとして機能させるための鍵となることが期待されます。

調査概要

この実験では、35人の参加者を対象に執筆アシスタントを使用した際の当事者意識(所有感覚著作感覚)についての短期調査を行っています。調査では参加者に対して、以下の質問をしています。

  • ChatGPTを使用して、非創造的な執筆(課題など)を行った場合、コンテンツに貢献していると思いますか?
  • ChatGPTを使用して、物語や詩(創造的なタスク)を作成した場合、コンテンツに貢献していると思いますか?
  • 大規模言語モデルが生成したコンテンツをあなたの名前でどこかに提出しますか?(課題、新聞記事など)
  • ChatGPTがあなたのために作成したコンテンツは、自分のものであると思いますか?
  • 特定のプロンプトに対してChatGPTが生成したコンテンツを考えると、プロンプトと結果のテキストの間には複雑な相互作用があります。プロンプトはAIモデルの生成を促す触媒として機能し、回答の方向性や性質を決めることができます。コンテンツが人間の入力によって促され、導かれていることを考えると、ChatGPTがあなたのために作成したコンテンツは、自分のものであると思いますか?
  • 最初にChatGPTによってコンテンツが生成されますが、その後の修正は人間の介入を反映し、テキストをコンテキストに合わせてより適切に形成するか、特定のメッセージを伝えるために形成す流ことができます。このの時、ChatGPTの修正された回答は、自分のものであると思いますか?

また、参加者は、主に18歳から24歳の大学生(94.3%)で構成されており、24歳から30歳の年齢層が少数派(5.7%)です。性別は男性が多く(65.7%)、女性は参加者の34.3%を占めています。さらに、参加者の大多数(88.6%)が科学分野のバックグラウンドを持っており、少数派(8.6%)が芸術分野のバックグラウンドを持っています。また、参加者は、自らが技術に関する意識が高いと評価しており、5点満点のスケールで3から5の値をスコアリングしています(5は「テクノロジーマニア」として、1は技術に対する意識が欠如していると示されます)。 

調査結果

調査の結果、単純な課題などの非創造的なコンテンツのようにAIによる介入(貢献)が少ないと感じる場合、参加者はより強い当事者意識(所有感覚著作感覚)を示すことがわかりました。これに対し、詩や物語、誕生日のお願いのような創造的なコンテンツでは、AIによる寄与がより大きいと感じられ、当事者意識が薄れる傾向にあることがわかりました。

下図のグラフは、参加者がさまざまな種類の大規模言語モデルベースのライティング支援で、どの程度の当事者意識を感じているか(1が非常に低く、5が非常に高い)を回答した結果です。創造的なコンテンツにおいては、人間の貢献が少なく評価され、より多くのクレジットが大規模言語モデルに与えられる傾向にあります。

創造的なタスクにおいて、大規模言語モデルを人間の貢献者とほぼ同等に扱う傾向があります。所有感覚著作感覚は、独創性、貢献、責任などが関係しますが、大規模言語モデルが生成するコンテンツに対する責任の所在は明確ではありません。一方で、創造性を要しないタスクでは、独創性や貢献の価値がそれほど高くないため、このような問題はあまりなく、大規模言語モデルに対して少ないクレジットを与える傾向にあります。これは、非創造的タスクと創造的タスクで、大規模言語モデルの使用が当事者意識(自分の成果物である感覚)にどのように影響を与えるかの違いを示しています

さらに、この研究では、大規模言語モデルがが生成したコンテンツに対する所有感覚著作感覚の認識を調べています。興味深いことに、調査において多くの参加者が大規模言語モデルによるコンテンツの所有権を主張しなかったにもかかわらず(「いいえ」51.5%、「たぶん」31.4%)、同一のコンテンツを自分の著作として提出する意向を示しました(「はい」28.6%、「たぶん」48.6%)。

個人が所有権を主張しない一方で、自分の名前を用いることを許容していることから、この心理的葛藤は、著作権とアイデンティティには、複雑な関係があり、この点については、さらに探究する必要があることを示唆しています。

さらに、プロンプトの提供において果たす役割を参加者に思い出させることで、コンテンツの所有権を主張する参加者が増加することも示しています。(「はい」17.1%から28.6%、「たぶん」31.4%から48.6%、「いいえ」51.4%から22.9%)。これは、個人がコンテンツの方向性を形作ることに積極的に関与していることを認識させ、所有感の再評価を促していると考えられます。大規模言語モデルの回答を編集したことを、意識させた後、参加者の62.9%がコンテンツの所有権を主張し、著作権の感覚が急上昇しました。

この研究から得られた洞察は、コンテンツ作成における共同性の重要性を示しており、個々の所有感覚著作感覚の認識に顕著な影響を与えることが確認されました。この理解を深めることで、人間とコンピュータ間の共同作業の有効性を高めることが可能です。

議論

この論文では、所有感覚著作感覚の間に心理的葛藤があることを明らかにしています。人々は自分の作品に対する認識を求める一方で、所有権の主張にはためらいを感じることがあります。このジレンマは、著者としての役割が単なる所有を超える意味を持つという認識から生じている可能性があります。しかし、コンテンツの創造や編集における自身の積極的な関与(例えば、プロンプトにおけるアイデアの提案、テキストの編集など)があることを意識させると、自らをより強く所有者や著者と感じ始めます。これは、個々の貢献を認めることが、作品に対する所有感覚著作感覚を感じるための鍵であることを示していると考えられます。

さらに、大規模言語モデルの広範な使用は、著作権の不明瞭さや偏見の導入、説明の難しさ、自律性の喪失、批判的思考の欠如、思考のアウトソーシングといった多くのリスクを伴います。これらの問題は、個々の貢献と大規模言語モデルによる貢献を明確に区別する重要性も強調しています。

この論文では、非創造的なタスクと創造的なタスクに分けて取り上げられていますが、より多様なコンテンツタイプの探求が求められます。そして、それにより、執筆支援システムの改善と包括的な理解が進むことが期待されます。

大規模言語モデルが生成するコンテンツの透明性と説明責任を高め、明確なガイドラインと基準を提供することで、個人が所有権に関する情報に基づいた判断を下すのに役立ちます。また、人間とAIの協力的なアプローチは、創造的タスクに関わる個人の間で所有感覚著作感覚を強化するのに役立つと考えられます。

また、所有感は具体的な所有権や倫理的考慮と深く結びついており、法的な枠組みや管轄区域にも影響を及ぼします。AIが生成したコンテンツの扱いは国によって異なり、アメリカでは、Thaler v. Perlmutterの事例のように、所有権を主張するには人間の著作が必要とされます。一方、中国ではAIによるコンテンツも著作権法で保護されるべきだと判断されています。法的な判断は、AI時代の著作権と所有権の価値観をを形成していきます。これは、デジタル時代における所有権の概念に新たな挑戦をもたらしています。

まとめ

この論文では、大規模言語モデルの支援による執筆によって、2つの主な精神的ジレンマを明らかにしています。第一に、コンテンツの種類によって、大規模言語モデルに帰属する評価がどのように個々の所有感に影響を与えるか、そして第2に、大規模言語モデルによって生成されたコンテンツに対する所有感覚著作感覚の主張との間の関連です。調査データの分析を通じて、これらのジレンマと背後にある思考プロセスがどれほど関連しているかを示しています。このジレンマに取り組むことで、執筆タスクにおける人間とコンピュータの相互作用をより深く理解され、効果的な執筆支援システムの開発が推進されることが期待されます。

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インターネット広告企業(DSP、DMP etc)や機械学習スタートアップで、プロジェクトマネージャー/プロダクトマネージャー、リサーチャーとして働き、現在はIT企業で新規事業のプロダクトマネージャーをしています。データや機械学習を活用したサービス企画や、機械学習・数学関連のセミナー講師なども行っています。

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