教師なし深層学習を使ったマルチオミクス解析で、新たな分子メカニズムの解明!
3つの要点
✔️ 心血管疾患の不明確な生物学的機序をマルチオミクス解析で解明
✔️ 人の手では解析の難しいマルチオミクス解析に深層学習を導入
✔️ 従来よりも有効な生物学的経路を同定
Unsupervised classification of multi-omics data during cardiac remodeling using deep learning
written by Neo Christopher Chung Bilal Mirza Howard Choi Jie Wang Ding Wang Peipei Ping Wei Wang
(Submitted on 15 Aug 2019)
Comments: Published by Methods (Volume 166, Pages 66-73)
Subjects: Recurrent Neural Network(cs.RNN), Computer vision (cs.CV)
背景
本研究では、心血管疾患(CVD)の生物学的な機序を解明する為、マルチオミクス解析と深層学習を組み合わせた手法を提案しています。ここでは、あまり聞きなれない「オミクス解析」「心血管疾患(CVD)」について簡単に解説した後、研究のポイントについて述べていこうと思います。
オミクス(omics)とは生体中に存在する分子全体を網羅的にまとめた情報のことで、こうした情報を用いた網羅的解析をオミクス解析と呼びます。具体的には、ゲノム(Genome)・トランスクリプトーム(Transcriptome)・プロテオーム(Proteome)・メタボローム(Metabolome)・インタラクトーム(Interactome)・セローム(Cellome)の6種類を扱います。こうしたオミクス情報はそれぞれの集合レベルを相互的に繋いで制御する、複数の分子情報のネットワークとして考えることができる特徴があります。こうした複数のオミクスに跨がる解析のことを「マルチオミクス解析」と呼び、こうした網羅的な解析により、単体のオミクス解析で得られなかった、新たな生物学的な知見の獲得が期待されています。
こうした期待を持つマルチオミクスですが、その複雑さ・データの不均一さから、人の知見だけでは解析が困難であるという問題点を抱えている現状があります。本研究では、こうした問題点に対して、深層学習を用いた解析を行うことで、獲得された生物学的経路の妥当性について検証しています。
本研究で解析の対象となっている、心血管疾患 (CVD)について解説していこうと思います。心血管疾患は、主として動脈硬化によって血管の内腔が狭窄し、酸素を豊富に含んだ血液の臓器への供給が不足する疾患群のことです。通常、糖尿病などで心臓付近の血管壁が肥大する(冠動脈疾患)と、心臓へ供給される血液が不足します。こうした状態を「血が不足している」という意味で「虚血状態」と呼び、この状態で引き起こされる疾患を「虚血性心疾患」と呼びます。こうした疾患で代表的なものは、血流が不足する為、痛覚によって異常を知らせる狭心症や、血流が遮断することで十分な酸素が供給されず、心臓の筋肉が壊死してしまう心筋梗塞が挙げられます。
CVD は、致死率が高い一方、関連する要因が多く、分子的メカニズムがほとんど知られていない複雑さを持ちます。
本研究では、オミクスのうち、プロテオミクスとメタボロミクスのデータセットを対象として、深層学習を用いて、CVD に関連する生物学的経路を特定し、その妥当性を評価することを検証しています。人の手では、解釈が難しいマルチオミクスに対して、深層学習を用いることで、人による解析では気づかない特徴を抽出し、新たな知見を獲得することを目標としています。
続きを読むには
(3883文字画像7枚)AI-SCHOLARに
登録いただく必要があります。
この記事に関するカテゴリー