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人種の違いの明確化を目的とした!強化学習による動的レジームのシミュレーションの提案

人種の違いの明確化を目的とした!強化学習による動的レジームのシミュレーションの提案

強化学習

3つの要点
✔️ 糖尿病の一種である、1型糖尿病—Type 1 Diabetes: T1D—では、複数の研究にて、民族性・人種の違いと、アウトカムの関連が、指摘されている。
✔️ 強化学習—Reinforcement learning: RL—を活用し,T1Dを対象として動的レジームを導出し、治療効果に対する人種の違いの影響についての明確化を目的
✔️ 白人サブグループと同じ糖尿病治療レジームを受けた場合、非白人サブグループにおいて平均HbA1cは0.33% 減少し,2サブグループ間の推定差の約35%が、人種の違いによって説明された。

The Impact of Racial and Ethnic Health Disparities in Diabetes Management on Clinical Outcomes: A Reinforcement Learning Analysis of Health Inequity Among Youth and Young Adults in the SEARCH for Diabetes in Youth Study
written by Anna R KahkoskaTeeranan PokaprakarnG Rumay AlexanderTessa L CrumeDana DabeleaJasmin DiversLawrence M DolanElizabeth T JensenJean M LawrenceSantica MarcovinaAmy K MottlCatherine PihokerSharon H SaydahMichael R KosorokElizabeth J Mayer-Davis
(Submitted on 1 Jan 2022)
Comments: Diabetes Care.
PMID: 34728528 PMCID: PMC8753766 (available on 2023-01-01) DOI: 10.2337/dc21-0496
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背景

複雑に絡み合う社会的な要因が持つ治療への影響をAIは解明できるか?

本研究では、強化学習を活用し、Ⅰ型糖尿病を対象とした動的レジームのシミュレーションをおこない、人種の違いなどの社会性の強い要因が持つ、治療効果を明確にすることを目指す。

糖尿病の一種であるⅠ型糖尿病—Type 1 diabetes: T1D—の症状について、人種・民族による違いが複数の研究にて指摘されている:特に、黒人、アメリカインディアン、ヒスパニック、アジア太平洋諸島系の若者や若年成人—youth and young adults:YYA—では、非ヒスパニック白人と比較し、HbA1c—ヘモグロビンA1c、糖尿病の判定基準—が高く、早期合併症の有病率が高い、と指摘されている。その要因の一つとして、社会的な格差などを要因として、非白人のYYAでは、白人と同じ治療レジーム—治療方針—を受けること困難であることが指摘され、こうした健康格差が治療効果・アウトカムの差につながる、ことが推察される;一方、こうした糖尿病治療レジーム・治療技術の違いが、T1Dの人種間格差に寄与しているか、は明らかにされていない:つまり、糖尿病レジーム以外の要因—社会的決定要因:ケアや糖尿病教育へのアクセスの違い;糖尿病ケアの利用率の低下;食糧不安—を考慮しきれていない課題がある。本研究は、強化学習を活用し、T1Dを対象として、民族間における治療方針を均一化し、治療効果における人種の違いを明確化することを目的としておこなった。

Ⅰ型糖尿病とは?

ここでは本研究の解析対象である、1型糖尿病について簡単に解説する。

糖尿病は、血管内の血糖値が高くなる疾患である。血糖値—血液内のグルコース糖・ブドウ糖の濃度—は、血液中に含まれている糖の量、を示し、食後に急上昇し、その後緩やかに正常値に戻る;一方、耐糖異常などにより、血糖値が高い—血液中の糖が多い—状態が継続すると、血管障害—血壁の破壊、血栓の発生・破裂、など—が発生し、内臓や脳機能、血圧上昇などにより、臓器障害が発生する;特に、毛細血管が多い臓器—腎臓・脳・肝臓—や大きな血管が通る臓器—心臓など—に対する障害リスクが急増する。こうした血糖値の高い状態が血糖異常—糖尿病—である。

糖尿病は、主に2種類存在する:膵臓の機能低下により、細胞に糖を取り込むインスリンの分泌量が低下する、インスリン分泌低下—Ⅰ型糖尿病—;細胞内に糖を取り込むための扉がうまく開かない、インスリン抵抗性—Ⅱ型糖尿病—。インスリンは、細胞内に糖を取り込むためのいわゆる「扉の鍵」です:Ⅰ型の場合、インスリン—細胞に吸収されるための鍵—の生産量が低下し、血管内の糖濃度が上昇する。原因として、膵臓のインスリン分泌量の低下が考えられ、遺伝などが原因とされている;一方、Ⅱ型の場合、生活習慣などによる、過剰な血糖上昇により、細胞側の許容量を超え、細胞の扉を開ける鍵—インスリン—が正常に機能しなくなる。米国では、多様な民族が共同している背景から、Ⅰ型糖尿病に対する問題意識も強く、解決へのニーズも高い。

研究目的

本研究は、強化学習を活用し、T1Dを対象として、人種の違いを考慮した治療レジームを導出することで、社会的要因が治療効果の差に与える影響を明確化することを目的としておこなった。

先行研究より、人種の違いにより、T1Dのアウトカムが異なることは指摘されている一方、複雑な社会的要因が関与することから、治療効果に対する影響を明確化することが困難であった。本研究では、強化学習を活用し、異なる人種において、同一の治療をおこなった場合のアウトカムを推定するモデルを構築し、社会的要因が治療効果に対して及ぼす影響を明確化することを目指す:具体的には、統計情報に基づく分布の生成・傾向スコアマッチングを用いて、非白人YYAが非ヒスパニック白人YYAと同等のT1D治療レジームを受けるシナリオを仮定し、血糖コントロールと糖尿病合併症における差を推定した。こうした研究により、T1D YYAの人種・民族性、糖尿病レジーム、アウトカムの関係を明らかにし、解決すべき課題への明確化、および、社会的背景を含めた要因に対する介入の促進が期待される。

手法

データセット

ここでは、解析対象となったデータセットについて述べる。

本研究で使用されているデータセットは、糖尿病に関するコホート調査の一つ、SEARCH for Diabetes in Youth Studyで収集された。この調査は、アメリカの5施設における登録ネットワークを用いて、20歳未満で糖尿病と診断された患者を対象としている。T1DのYYA978人のうち、47.3%が女性、77.5%が非ヒスパニック系白人、平均年齢は12.8±2.4歳であった。白人サブグループと比較し、非白人サブグループのYYAは、白人と比べ、インスリンポンプ—インスリンを持続的に注入するポンプ—の使用率が低く—非白人:白人=1.8%対11.5%、1日に4回以上グルコース検査をおこなう割合が低かった—非白人:白人=76.8%対84.6%。また、平均HbA1cは、非白人サブグループと白人サブグループで、9.2%と8.2%、であった。コホート開始時に調査した初期糖尿病合併症は、下記の通りである:糖尿病網膜症;糖尿病性腎臓病(DKD);末梢神経障害

統計解析

この章では、本研究でおこなった統計処理について述べる。

この解析は、2つの異なる推定T1D治療レジームによるアウトカムへの影響を推定する目的でおこなった。YYAは、非白人人種・ヒスパニック系民族—非白人サブグループ—、と、非ヒスパニック系白人人種—白人サブグループ—に分類された。統計解析は、2段階で構成される:1)非白人サブグループと非ヒスパニック白人サブグループにおける治療レジームの分布への推定、2) 非白人YYAが白人サブグループの治療レジーム分布を受けた仮定でのアウトカムの推定。本研究では、糖尿病治療レジームをインスリン投与方法、SMG—self-monitoring of glucose、グルコースセルフモニタリング—の2種類の頻度—調査前・コホート訪問時—の3変数で構成した。

傾向スコアモデリングによる推定

この章では、傾向スコアマッチングを用いた、治療レジームに対する分布の推定について述べる。本研究では、白人のサブグループにおける治療法—治療分布—をπWhite、非白人での治療分布をπnon-Whiteとしている。SEARCHコホートのデータから、傾向スコアをモデル化し、複数の変数—年齢、性、SEARCH試験施設、SEARCH訪問、T1D期間—で制御し、2つのサブグループにおける治療レジーム分布を推定した。解析では、多項ロジスティック回帰を使用し、前述の共変量に対する治療選択の確率に適合させ、アウトカムは治療レジーム—インスリン様式およびグルコースセルフモニタリング:self-monitoring of glucose, SMG—とした。ここでは、インスリン投与方法、SMGの頻度—コホート訪問前・コホート訪問—について、別の傾向スコアモデルを適合させた。また、SMGの頻度におけるコホート訪問前、コホート訪問では、それぞれ異なるモデルを当てはめた。

糖尿病治療レジームのアウトカムに及ぼす影響の推計

ここでは、解析の第二段階である、非白人YYAのアウトカムに対する糖尿病治療レジームの効果推定、について述べる。

本研究では、強化学習の一種Q-learningを用いて、白人サブグループで推定した治療レジームを非白人YYAが受けた場合を仮定し、平均HbA1c、および、合併症—糖尿病網膜症、DKD、末梢神経障害—のリスクを推定した。これらの合併症では、推定された分布に対し、異なる治療レジームによるリスク差について推定した。また、構築モデルでは、診断時年齢、性別、SEARCHサイト、T1D期間、親の最高学歴、健康保険の種類、喫煙状況、身体活動、スクリーンタイム、非ヒスパニック系黒人—非白人サブグループに集約された人種/民族間の差異を考慮—の指標変数を採用し、感度分析では、性別で層別したモデルについて、修正の根拠を検討した。

結果

このセクションでは、本研究で構築したモデルにおける評価および結果について述べる。

多変量傾向スコアモデリングによる糖尿病治療レジームの推定

この章では、傾向スコアモデリングを活用した、動的レジームの推定について述べる。

 

傾向スコアモデリングにより、非白人サブグループのYYAは、治療レジームの分布が異なり、またSMG頻度に ついても異なっていた(下図)。

傾向スコア比では、集団レベルでの傾向と一致しており(下図)、非白人集団の各個人は、πwhiteでは、πnon-whiteより、インスリンポンプまたはSMGを1日に4回以上使用する頻度が高いことが推定された。

 

糖尿病治療レジームに対する人種の違いの影響

ここでは、人種の違いによる影響に関する推定結果を述べる。

非白人サブグループのYYAでは、平均HbA1cにおいて、非白人治療レジームより、白人の治療レジームが低い値となった:非白人:9.1±0.1%;白人:8.7±0.1%。人種の違いを考慮した治療レジームのシミュレーションを受けた非白人YYAの推定差は0.33%となった。また、白人の治療レジームでは、T1Dにおける合併症発症リスク—糖尿病網膜症、DKD、末梢神経障害など—はいずれも低い結果であった:糖尿病性網膜症:6.0%;DKD:9.1%;末梢神経障害:5.9%。

人種の違いによる、治療レジーム差の推定値とアウトカムの差の比較

ここでは、治療レジームの違いがT1Dのアウトカムに与える影響について述べる。

平均HbA1cにおける非白人と白人の差—0.9%—に基づき、推定治療レジームによる差は、HbA1cにおける差の約35%—0.95%の0.33%—を示していた。また、3つの合併症の有病率における治療レジームによるリスク差は、下記のようになった:糖尿病性網膜症:約269%;糖尿病性腎症—DKD—:71%;末梢神経障害:81%。

考察

本研究は、強化学習を活用し、T1Dを対象として、糖尿病治療レジームを推定し、人種の違いによる治療効果の差を明確化することを目指しておこなわれた。T1Dにおいて複数の研究が人種の違いについて報告している一方、こうした要因は社会的な背景をはじめとする要因—医療施設へのアクセスの違い・貧困格差など—と関連が強いため、アウトカムへの影響が不明瞭である、という課題があった;そのため、本研究では、RLを用いて、人種に関わらず、同様の治療を受ける仮定を設定し、T1Dのアウトカムを推定・比較することで、生物学的な違いによる影響の明確化を目指した。評価では、縦断的コホートデータから、治療での必須要素を人種間—白人および非白人—で均一化し、平均HbA1cにおいて0.33%減少を確認した:この差分は、統計的に有意で、非白人と白人サブグループ間におけるHbA1cの差の約35%を説明していた。この結果から、HbA1cや合併症の有病率での差分は、測定されていない関連要因—制度、対人、内面的な人種差別や疎外—を反映している推察された:例えば、特定の糖尿病治療レジームを受ける障壁、サポート。

本研究の利点として、健康格差への寄与の明確化、が挙げられる。提案手法では、治療レジームにおける分布およびRLを活用し、仮想的な治療シナリオを想定したアウトカムを推定することで、糖尿病管理における健康格差への寄与度を定量化している—これにより、測定時点でのアウトカムから治療の潜在的な効果を明確化し、治療レジームへの調整が可能となる。

また、課題として、下記のようなものが挙げられる:人種格差にある動的な要因への解析の不足;非白人のYYAにおけるサンプル数の少なさ。人種格差に含まれる多くの社会的要因は、糖尿病の管理およびアウトカムに影響をおよぼす可能性が高い:医療アクセスに対する容易さなど。加えて、社会的要因の多くは集団レベルで不均一であり、時間の経過とともに変化する。本研究では、コホート調査の観点からこうした社会的要因に関するデータが不足しており、今後、これらを補填した解析をおこなう必要がある。また、本研究では、非白人のYYAのサンプル数が少なかったことから、特定の人種を一つのグループにまとめて解析している—そのため、社会化・構造化された人種差の異なる形態が及ぼす影響を考察しきれていない可能性が高い。また、サンプルサイズの制限から、交差性の側面を考慮した分析はできなかったため、因子間の影響を適切に捉えきれていない可能性が考えられる。これらの解決策として、より綿密な調査およびサンプル数の少ない状況に対する学習手法—モデルベース学習—の導入が考えられる。

 

 

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