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【日経クロストレンド EXPO 2020】 ーAI活用の現場とその未来ー

【日経クロストレンド EXPO 2020】 ーAI活用の現場とその未来ー

インタビュー

新型コロナウイルスの影響で、企業を取り巻く環境が大きく変化しました。この事態への対応で一気にデジタルトランスフォーメーション(DX)へ踏み切る企業が増えています。テレワークなど新しい働き方へ取り組む一方で、同時にSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)を自社の戦略に取り込む必要にも迫られています。これらを実現する鍵となるテクノロジーの一つがAI(Artificial Intelligence:人工知能)、とりわけ精度の向上が著しいディープラーニングの活用です。AI実装の山谷を乗り越え、ディープラーニングで新たな事業を生み出した取り組みや、産業・社会的なインパクトの大きな取り組みが次々と登場してきています。

このような企業の取り組みを表彰する場として、”日経クロストレンド EXPO 2020”が開催されました!
このセミナー
では、日経クロストレンドと日経クロステックが実施した「第二回 ディープラーニングビジネス活用アワード」受賞プロジェクトの方々をはじめとして、ディープラーニング活用の専門家の方々が登壇し、そのビジネス活用についてご紹介いただきました。ディープラーニングを社会実装している最前線を学べる場であり、非常に参考になるお話ばかりでした!

AI-SCHOLARはAIの最新技術を解説することに主眼をおいております。しかし、社会ではそんな最新技術は生かせないと考えられています。我々自身もすぐにこの技術が社会を変えるとは思っていません。例外として最新技術がとんでもないことを巻き起こすこともありますが、全てではありません。しかし、最新技術は時間が経てば、当たり前ですが古い技術です。そしてどんどん技術や分野は成熟していきます。それについてこれていないのが日本です。海外は今”生きる”よりもこれから”生きる”に投資しています。海外ではリサーチは歴とした仕事として認知されています。今回受賞された技術も必ず、最新技術によって精度や拡張がされていくことは確実です。

今回は、この日経クロストレンド EXPO 2020に参加してきましたので、内容についてご報告させていただきます! 

第2回 ディープラーニングビジネス活用アワード受賞者の紹介

大賞受賞講演

今回大賞を受賞したのは、日立造船株式会社のAI超音波探傷検査システムです!
ーものづくりはディープラーニングでここまで変わるーというタイトルで、機械事業本部 開発センター 生産プロセスグループ 篠田薫さんが受賞講演をなさいました。

日立造船株式会社 篠田薫さん講演模様

受賞内容は、プラント用設備の超音波探傷検査にディープラーニングを活用!
石油・化学プラントや発電所などでは、熱交換器が必ず使用されています。この熱交換器の性能を維持するためには、定期的なメンテナンスが必要となっており、この検査には超音波探傷検査が用いられています。この検査では、約336万枚の画像データから、作業者が目視により欠陥の有無を判定していました。そのため、300時間に及ぶ時間と労力を要していましたが、AIを用いた本システムの開発により、大幅な業務効率化(解析時間が1/4以下)検査精度の向上が実現したとのことです。

さらに、このシステムは競合他社の品質検査にも採用がされており、プラント設備のメンテナンスに参入することになるなど、工場のものづくり事業領域では考えられなかったような変革をすることができました!

以上の理由から今回大賞を受賞することとなりました!
今後は、この検査システムの外販・技術提携を通じて画像解析サービスを展開していくことが目標ということでした。

ディープラーニングを活用することで新たな事業を生み出した素晴らしい取り組みですね!

部門賞受賞企業とのパネルディスカッション

部門賞を受賞された各企業様がディープラーニングをどのように活用されているのかパネルディスカッション形式で伺いました!

  • モビリティー部門賞:ナビタイムジャパンの「ディープラーニング活用の『ドライブレコーダーNAVITIME』アプリ」
  • メディア部門賞:ヤフーの「不適切なコメント投稿を検知するAI開発」
  • 食部門賞:電通の「TUNA SCOPE」
  • ファッション部門賞:ニューラルポケットの「ファッショントレンド分析AI AI-MD」
  • インフラ部門賞:イクシスの「社会・産業インフラの生産性向上プロジェクト」

まずは、モビリティー部門賞を受賞されたナビタイムジャパン「ディープラーニング活用の『ドライブレコーダーNAVITIME』アプリ」です。
このアプリは、複雑な設置が不要で、アプリ1つでスマートフォンをドライブレコーダーにできるものとなっています。安全運転支援のための「前方車両の接近検知」機能にディープラーニングが活用されています!今後は、歩行者や自転車、車線を認識して、安心安全な運転を実現することを目的としています。

次に、メディア部門賞を受賞されたヤフー「不適切なコメント投稿を検知するAI開発」です。
この機能は、Yahooニュースコメント機能における、記事との関連性の低いもの、暴力的・差別的・過度に品位にかけるものなどの違反コメントを自動検知することができるものです。これには、自然言語処理に、
ディープラーニングの最先端大規模モデルを適用しており、従来型の判定モデルと比較して、違反コメントの検知数が約3倍にまで向上しています。さらに、関連性の低いコメント検知の自動化や、対応までのリード時間の大幅短縮も実現しています。

次に、食部門賞を受賞された電通「TUNA SCOPE」です。
このAIはマグロの目利き職人の職能をディープラーニングにて実現して、マグロの品質判定をするという非常にユニークなものとなっています。
マグロの目利き職人は、市場にてマグロの尾断面を直接見て”質”を判定しています。この目利き職人は年々数が減少しているだけでなく、10年以上の修行が要る、高度な『暗黙知』となっています。そこでマグロの尾断面の画像をAIに学習させ、職人の目利きと同程度の品質判定を可能としました。
実際に、AIが目利きをしたマグロを"AIマグロ"としてブランド化したりと話題になっています!
今後このTUNA SCOPEを、日本の目利きAIが認めた世界基準の品質規格として広め、美味しいマグロをサステナブルに食べられる世界を作ることに期待されます!

次に、ファッション部門賞を受賞されたニューラルポケット「ファッショントレンド分析AI AI-MD」です。
今、アパレル業界では、大量の在庫廃棄が問題となっています。これは社会問題であるだけでなく、企業にとって非常に多額の損失となっております。この要因の1つとして、トレンド予測ができていないことが挙げられます。そこで、SNSやファッションECサイトのトレンド情報をクローリングし、AIに学習させることで次のトレンドを予測把握することを行なったとのことです。
実際に、AI-MDのトレンド予測に基づいて、アパレル商品を開発し、全国各地2,200店舗で販売され、売れ行きが非常に好調であることがわかってます!販売ペースは、AI-MDを類似商品の過去同期物と比較して10%以上速く、企業の売り上げに大きく貢献しています!

最後に、インフラ部門賞を受賞されたイクシス「社会・産業インフラの生産性向上プロジェクト」です。
ロボット開発を主軸としていたイクシスは、これまでに色々な現場で、ロボットを投入し、様々なデータを収集してきました。こういった背景から、取得したデータにディープラーニングを活用する、データ処理サービスを立ち上げました!
昨今、社会・産業インフラの老朽化にともなって、点検や生産性向上のための作業の効率化が求められています。そこで、その点検作業をロボットが行いデータを収集し、データ解析をAIを用いて行うことで作業を効率化することを実現しました。さらに、AIを用いることによって経年変化を追うことができ、これまでにできなかった定量的な判定をすることが可能となりました!
今後、この定量的な判定から、補修時期の推定等に利用できることが期待されます!

パネルディスカッションの様子

協賛講演 

伝統的製造業におけるAI・データ活用の挑戦 矢崎総業 

矢崎総業は、自動車に関連する製品を主に扱っており、特にワイヤーハーネスではシェア1位の実績があります。このように世界中に展開しているような大企業において、AI活用にどのような課題があるのか、またAIをどのように活用しているのかということに関して、AI・デジタル室 副所長の丹下 博 さんにご講演をいただきました。

矢崎総業 丹下 博さん講演模様

丹下さんは、大企業でAI活用が加速しない背景として次のことを挙げてらっしゃいました。

  • 十分なAI・デジタル技術者・企画者が少ない
  • 各部門で取り組むもノウハウが分散し、技術が会社に残らない
  • AI投資額が圧倒的に少額である。
  • 既存事業で蓄積したデータが各部門に分散し、有効活用できていない

以上のようにヒト、モノ、カネ、情報それぞれに関して課題があるとのことでした。
そこで、このような課題を解決するために矢崎総業では、各部門のAI人材を集結させたチームを作りました。そのチームでAI人材を育成し、その後各部門に還元する。この教育機関のようなシステムを確立することで、人材・データ・AI技術を集結させた組織を作ることができるということでした。

次に、矢崎総業で実際に取り組んでいるAIを活用したプロジェクトをご紹介いただきました。
矢崎総業では、”自動車に関連する
交通事故を削減する”ということを掲げています。
一般的に交通事故を引き起こす要因として、急ブレーキ、急加速、急ハンドル、スピード超過の4つが引き合いに出されます。一方、矢崎総業では、それらだけでなく、駐車場探しに気を取られているであったり、単調な走行で気が緩んでいるであったりと非常に現実的な特徴量を約2000も抽出しています。これらの特徴量をもとに、様々な交通事故をAIアルゴリズムを用いて解析することで、事故のシーンの状況を正確に分類することができるようになりました。

Jetson 活用による エッジ AI 教育 NVIDIA

NVIDIAは、世界で初めてグラフィック用のチップであるGPUを開発した企業です。高い計算能力を有しているこのGPUは、ディープラーニングを行うためによく活用されています。そんなNVIDIAは現在、AI教育にとても注力しています。中でもNVIDIAが開発した"Jetson"は、エッジデバイスに搭載するためのGPUプラットフォームで、AIやロボティクスの開発スタートキットとして発表、販売されています。今回は、このJetsonを活用したAI教育について、NVIDIAの大岡 正憲 さんが講演をなさいました。

NVIDEA 大岡 正憲さん講演模様

NVIDIAでは、誰でもAIを簡単に学習することができるようにすることを目的として、このJetsonを発売しています。実際に、開発キットの販売だけでなく、オンラインでの初学者向け講習も行っています。またAI認定プログラムを立ち上げており、オンライン講座によるインプットから、実際にプロジェクトを作成し、その成果物を提出するアウトプットまでを行うコースが用意されています。このプログラムを通して、エッジAI教育をもっと広めようと試みているそうです。
さらに、Jetsonを活用した開発者はすでに70万人を超えており、非常に多くのコミュニティーが存在します。そういった開発者が作成した、チュートリアルや、How toガイドなどがNVIDIAのサイトにて一般公開されています。また、開発者が多数コミュニティープロジェクトを立ち上げており、設計情報等もGitHubで公開されているので、そこから多くのヒントを得ることができます。
以上のようにNVIDEAは、AIを学ぶための環境を整備しています!
NVIDIAらしいAI教育へのアプローチをしていることがよくわかりました!

DEEP LEARNING x ものづくりが日本を強くする 〜高専DCONの挑戦〜

DCON(ディーコン)は、高等専門学校生が日頃培った「ものづくりの技術」と「Deep learning」を活用した作品を制作し、その作品によって生み出される「事業性」を企業評価額で競うコンテストです。このコンテストを通して、実際に企業から評価を受け、過去入賞チームの中から起業に至る事例が出てきています!このように新たなスタートアップが高専から生まれ、さらに世界で躍進する企業を排出することを目指してDCONは開催されています!
今回は、高専DCONから起業したチームと、今年開催されたDCON2020のファイナリストが登壇し、パネルディスカッションが行われました。

1人目は、昨年度DCON優勝者で、株式会社integrAIを起業された長岡工業高専のソドゥさんです!
integrAIでは、画像とモノをデータ化することを目指しています。特に、アナログメーターなどのアナログなものをデータ化するためにディープラーニングを駆使しています。
この開発のきっかけになったこととして、地元の産業が抱えている課題を実際に自分たちの目で見たことが大きく影響したそうです。その課題として、金属業や食品工場などにおいて、温度や湿度といったデジタルな表示のものを管理し自動化するというものがありました。この課題を解決するために、カメラなどのエッジデバイスから、ルーターを通してクラウドと繋げ、さらにクラウドでデータ化されたものを端末で見れるようなシステムを開発しました。このシステムは、実際に工場で実証実験が行われており、実用に向けて大きく進んでいます!

2人目は、同じく昨年度DCON入賞者で、株式会社三豊AI開発を起業された香川高専の武智さんです!
三豊AI開発では、”AIによる送電線点検”を目標として研究を行なっています。
武智さんは、もともと高専の研究で、送電線上を走行し、送電線の外観を撮影する送電線点検ロボットの開発を行なっておりました。このロボットによって撮影された画像を従来は人間の目で確認していました。そこで、この確認の作業をディープラーニングを用いることでより効率的に点検作業が行われ、コスト削減や、作業員負担の軽減、さらには、AIを使うことによって点検ミスの低減ができるという期待から
”AIによる送電線点検”の開発を始めたそうです。このシステムは、すでに実用化に向けて地元の企業と共同で実験を進めています!

3人目は、今年度DCONで優勝した東京工業高専の板橋さんです!
板橋さんは、今年度のDCONにて”自動点字相互翻訳システム”を報告しました。これは、視覚
障害者向けのシステムで、書類の写真を撮影すると、それを点字に翻訳して機械に出力し、視覚障害者が読めるようにするというものです。
この開発のきっかけとして、実際に視覚障害者の方にシステムのアイディアをいただいたことが非常に大きかったようです。はじめはディープラーニングを用いていない非常にシンプルなものでしたが、これに
ディープラーニングを組み合わせ、ビジネスモデルもしっかり整備して活用していけば、社会的に大きな意味があるものになるんじゃないかというモチベーションから、DCONに挑戦したとのことでした!実際に、ディープラーニングを用いることで、非常に長い文や、図表などを視覚障害者が読みやすい文章に要約することができるようになっています。

4人目は、同じく今年度DCONで入賞した鳥羽商船高専の釜谷さんです!
釜谷さんは、三密を避けた旅行支援のための”とば海鮮丼きっぷ”を開発されました!
このサービスは、三重県鳥羽市を対象とした、海鮮の提供店と体験イベントを提示し、現在位置からお店に到着するまでの道や、お店の混雑具合から、密を避けた最適な移動経路を提案するサービスです。

高専DCON入賞者とのパネルディスカッション

エンディングキーノート ー社会と産業を変える人工知能の未来ー 

最後の講演として、日本ディープラーニング協会理事長を務めていらっしゃる東京大学大学院教授の松尾豊先生に、上記のタイトルでご講演いただきました。

松尾 豊先生 講演模様

松尾先生は、今回受賞されたビジネス全てが、ディープラーニングを用いることによって、コスト削減であったり、売上の向上であったりと事業上の付加価値に繋がっていることが非常に素晴らしいとおっしゃっていました。
また、松尾先生は、ビジネスに使えることがとても大事だと強調していらっしゃいます。
すごい勢いで事業成長を遂げているGoogleやFacebookなどの大企業は、いくらでも研究者を雇うことができて、そこからたくさんの技術を開発、成長させることができています。このように技術を伸ばしていくためには、それに対応するビジネスを成長させ、技術に再投資していかないと成し得ないことがよくわかります。したがって、ディープラーニングの技術を伸ばしていくためには、ビジネスにどんどん活用し、そのビジネスが成長することが前提条件だということでした。
また、ディープラーニングをビジネスに活用する上で、人間系が律速になっている部分に活用し自動化することがビジネスの成長に一番効果的であるとおっしゃっていました。このように事業全体が速くなることでビジネスの成長も速くなるということです。

次に、今のディープラーニングが技術的にどのように成長しているかをご紹介いただきました。最近特に自然言語処理におけるディープラーニングのインパクトが大きくなっています。

2020年の7月にGPT-3という非常に精度の高いAIが報告されました。非常に膨大なデータ量(数兆word)と巨大なモデル(1750億パラメータ)を元にしていることが大きな特徴です。このGPT-3を用いて、数行の要約した文章を与えるだけで、まるで人間が書いたかのような記事を作れることが最近話題になりました。さらに、作りたいwebページのデザインやツールを文章で伝えるだけで、GPT-3はページを作成することができます!
このようにGPT-3は自然言語をプログラミング言語に翻訳するようなことも可能です。多くのタスクがこのGPT-3によって可能になる可能性が秘められており、今後の活用方法にとても興味がありますね!

さらに、今後ディープラーニングは、人間の持つ言語能力がどのように実現されているのかといった知能の仕組みの解明にも一役買うことができるのではと松尾先生はおっしゃています。ディープラーニングが人間の理解に役立つことができれば非常に大きなインパクトを与えることは間違いないと思われます。

遠い将来、根源的イノベーションが起きることに期待がもたれますね!

まとめ

今回、この日経クロストレンド EXPO 2020を通して、ディープラーニングがビジネスでどのように活用されているかを多く学ぶことができました!また、どの実用例を見てみても、ビジネスや実生活における課題を明確に捉えられていて、ディープラーニングを活用することで効率化がなされていることがわかりました。今後、ディープラーニングが活用され、ビジネスが加速、成長することで、さらにディープラーニング技術への再投資が行われるような好循環が生まれることに期待ですね。

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中川 馨太 avatar
1995年生まれ。東京理科大学大学院博士課程。材料化学を専門としています。2020年8月からAI-SCHOLAR編集部に参画し,主に運営を担当します。AIに関しては初心者です。誰でもわかりやすく,読みやすいようなメディア作成を心がけて,運営に取り組みます。

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