最新AI論文をキャッチアップ

AI×クリエーティブ最前線。広告業界に革命を起こす「電通デジタル」の取り組みとは

AI×クリエーティブ最前線。広告業界に革命を起こす「電通デジタル」の取り組みとは

インタビュー

マーケティングにもAI(人工知能)が進出してきています。実際のところ、AIはマーケティングに対して、どのような役割を果たすのでしょうか。

今回編集部では、クリエーティブ評価機能「AIアートディレクター」を搭載した、バナー自動生成AIツール「ADVANCED CREATIVE MAKER(アドバンストクリエーティブメーカー)など、AI×クリエーティブ領域で先端的な取り組みをしている電通グループさんにお話を聞いてきました。

インタビューに応えてくださったのは、「ADVANCED CREATIVE MAKER Ⓡ 」の開発をした、電通デジタル アドバンストクリエ
ーティブセンター 和泉興さん(写真左)と電通 データ・テクノロジーセンター 福田宏幸(写真右)さんです。

クリエーティブAIの取り組み

AI×クリエーティブ領域での取り組みを簡単に教えてください

和泉 現在パーソナライズされた広告が主流になってきていますよね。 インターネットでは既に常識化しているこの手法ですが、これに伴って高い鮮度と多様な表現案と大量なバナー広告の制作が求められています。例えば昔は一個の広告が3ヶ月程度持ったのに対し、今はターゲットの細分化に伴ってたくさんの広告表現が一度に消費され、バナー広告がいくらあっても足りないというような状態が起こっています。

人の手で作っていてもいずれ追いつかなくなるのは見えていて、そこに対してAIで何かアプローチができないかということで作ったのが、人の手で作っていてもいずれ追いつかなくなるのは見えていて、そこに対してAIで何かアプローチができないかということで作ったのが、バナー自動生成AIツール「ADVANCED CREATIVE MAKERⓇです。

ADVANCED CREATIVE MAKER過去のクリエーティブバナー広告とCTR(クリック率)の実績値を機械学習で解析し、その結果をもとによりパフォーマンスの高いバナー広告を自動作成するシステムだ。キーワードや訴求軸などの方向性を入力すると一つ目の予測エンジンがパフォーマンスの高いバナーの要素を割り出し、バナーをデザインする。さらに出来上がったバナー広告の一つ一つについて、2つ目の予測エンジンがCTR予測を行う。効果が高いと予想されるバナー広告から順にランキング形式でリスト化されるので、担当者は上位の中から良さそうなものをいくつか選ぶという仕様だ。

福田このシステムでは、5秒に一枚のペースでバナーを生成し、予測CTRを割り出します。短時間に候補となり得るバナーを1,000枚以上生成し、その中から特に優れた10~20案を利用することを想定しています。とある案件で9タイプのバナー出稿したのですが、三回連続でAIがCTR予測を行なって1,2位になるだろうという予測だったバナーが実際に1,2位を取るなどの事例もでてきており、かなり高精度なものになってきています。

さらに、今年の5月に新たな機能として「AIアートディレクター」としてまた発表をしている。 AIアートディレクターは、アートディレクターやデザイナーなどが有する、「広告効果の高いバナー広告を判断するスキル」を数値化し、AIがその傾向を学習することでバナー広告を自動で選別する機能を持ち合わせているという。

和泉 先ほど述べたようにたくさん候補を作って提示してくれるのですが、実際これだけたくさん提示されるとどうしてもより良いのがあるのではないかと候補を絞りきれず、結局、仕事量が減らなくなってしまいます。人間は思った以上に『判断』に対して体力を使うんですね。葛藤している中で、どちらかを選ぶときにたくさんの情報を処理し、かなりの負担がかかっているはずなんです。

今年の5月にはさらにADVANCED CREATIVE MAKERⓇの機能をアップデートし、人間の感性を学習させたAIアートディレクターという機能を搭載しました。

アートディレクターやデザイナーなどのスペシャリストが有する、広告効果の高いバナー広告を判断するスキルを数値化し、AIがその傾向を学習することでバナー広告を自動選別する機能ですCTR予測とは別軸で、AIアートディレクターが判断した、ダイレクトレスポンス広告・ブランド広告のどちらに有効な表現かというポイントを、最終判断の参考材料として取り入れることが出来ます。

 

最近では、画像(静止画)だけでなく動画の方もこういった取り組みを行っており、動画再生の完了率AIを用いて予測するサービス開発を行なっています。

他にも、気象情報とTwitterのツイート情報を常時観測し、タイムリーな社会的ムーブメントを捉えてデジタル広告へ反映することができるシステム「Multi Impact Switcher™ (マルチインパクトスイッチャー)」の提供開始も行っています。

 

実際に使ってみて

実際に使ってみた感想を教えてください

福田 今までこういう広告出稿の方法は試したことありませんでしたが、AIが提案したので試してみようというような新しい視点をもらえ、かつ実際に良い成績を残すといったことが起こっていますね。例えば、バナー広告とかだとある程度勝ちパターンが定まってくるじゃないですか。変化のある提案って、新人やアシスタントが提案しても通らないことが多いのに対し”AIだったら”という遊び心が生まれてこういったブレイクスルーが起こっているという状況は非常に興味深いです。

また、AI アートディレクターの制作に関わってくれたアートディレクターやデザイナーは『AIに自分でも気づいていないセンスの因子を見つけてほしい』というように、かなり寛容に受け入れてくれました。今までは、広告制作者の「こういう広告には効果がある」という経験則に基づきバナーを作っていたわけですが、感覚的なところを数値化する事で、実際に自分でも気づいていないセンスの要素やエッセンスを見つけてくれたりします。逆に、重要な要素だろうと取り入れた変数が全く関係なかったりと新しい気づきを与えてくれるきっかけになったりするのが面白いところです。

クリエーティブなAIが社会に与える影響

-AIがクリエーティブを作るということはアウトプットの画一化を生むなんて意見もあったりしますよね

和泉 正直なところ、画一化されると思います。今回のAIブームはビッグデータ解析によって支えられており、そのデータは過去と現在までのデータしか取得できません。そのため、人間が自分でも気づいていない種類の欲求には対応するのは難しく、電通グループでもデータによる未来予測をクリエーティブに取り込むツール開発を進めています。

一方で、今後バナー広告に限らず広告の形態自体が変化し、安物の野菜じゃなくてオーガニックの野菜が好まれるようにAIの作ったバナーが大量生産の安物として扱われ、人の作ったオリジナルの広告がオーガニックな高級品として扱われる未来が来るのではないだろうかと予想しています。

-このような人間の仕事を肩代わりしてくれるAIが多く出現してきている中で、人間が本質的に取り組むべき仕事は何だとお考えでしょう?

福田この このADVANCED CREATIVE MAKERを例えて言うと、富士山を登るときに、初めから富士山の5合目まで車で行くようなものですね。当たり前のものはあるけど、人間はそれを土台としてより高いところまでどうやったら行くことができるかと言うのを考えていく必要があると思います。普通にジャンプするよりも土台があった上でそこからジャンプすればより高いところへ行ける。人間とAIはそういった関係性でうまいこと仕事をしていけるのではないかなと感じています。

例えばデザイナーの新人はたくさん案を作ってクリエーティブの勝ちパターンを蓄積してきたわけです。今後は新人もいきなりAIが作ったものを選ぶというところから始まる可能性があるというのは大きな変化でしょう。このような変化に合わせて「選ぶスキル」を上げるための新しい育成方法などが確立されていくのではないかなと思います。時代と技術の変化に合わせて人のスキルも変わっていくのではないでしょうか。

-ありがとうございました。

記事の内容等について改善箇所などございましたら、
お問い合わせフォームよりAI-SCHOLAR編集部の方にご連絡を頂けますと幸いです。
どうぞよろしくお願いします。

お問い合わせする