機械学習で良好精子を選別。不妊治療における人的工数削減へ。

横浜市立大と横浜国立大の研究チームは、人工知能(AI)を使って精子を見つける支援システムを開発しました。体外受精が増えるなか、培養士の負担を軽減し、精子の見落とし防止につながる可能性があります。また、精子一つ一つをマーキング、ランク付けすることにより精子の質的評価も可能になりました。

【参照】:人工知能補助により良好精子を選別するシステムの開発
https://www.youtube.com/watch?v=QhdvBRj8HP0

不妊の原因の過半数が男性

不妊の原因の約半数に男性が関係してるといわれていますが、男性側が原因の場合、良好精子を選精することが何よりも重要です。

現在、不妊治療において、精子を取り扱う場面は、 顕微受精時の良好精子選別(年間13万件)、精巣内精子回収術時の精子探索(年間1000件)、 体外受精時の精液調整(年間9万件)などなど複数ありますが、これらの作業のほとんどを胚培養士が行っており、精子が見つかりにくい場合は、2~3人がかりで数時間、探し続けることもあるそう。

短時間の間に顕微受精に適した精子を探索しなくてはならないにも関わらず、良好精子判別は胚培養士の経験と知識に依存し、(明確な基準がない) さらに、高度な技術を必要とされプレッシャーも大きいといわれています。また、若手培養士もすぐに体得できる技術ではなく、習得に時間がかかるのも課題です

良好精子を見つける支援システム

そこで、横浜市立大付属市民総合医療センターは、良好精子を機械学習を使って判別させようと試みました。

受診した患者の同意を得て、精巣組織に含まれる精子や白血球などが混在する顕微鏡映像を利用し、培養士が精子約8千個、白血球など約2万5千個に分類し、AIに学習させました。その結果、精子とそれ以外の細胞を見分け、精子の可能性のある場所を囲んで知らせるシステムの開発に成功したとのこと。

このシステムは精子の見落としを極力避けるため、設定次第で精子と形が似た細胞もある程度検出するように設計されています。たとえば「精子を99%見落とさない」と設定すると、AIが示したうち、約半分にほかの細胞も入り込みます。この情報をもとに、培養士が治療に使う精子を決定することで、今まで選定にかかっていた工数を削減することに可能になりました。また、精子一つ一つをマーキング、ランク付けすることにより精子の質的評価も可能になりました。

 

精子を選別させるために以下の手順で学習させていきます。

①精子の検出・インデックス化

動画像処理により,顕微動画像の背景ノイズと精子を区別する処理を行い、各個体ごとにインデックスを振る作業を自動化します。

② 精子形状・運動性特徴の抽出

以下の精子形状と運動特性を深層学習によって特徴抽出します。ここでは輝度勾配(光り方の違い)をもとに特徴量を算出しますが、細胞一個を丸ごと学習させるのではなく、何個かに分割することでそれぞれのヒストグラムを作成し、多次元の特徴を学習させます。

 
③ アンサンブル学習による精子評価

複数の弱学習器の組み合わせによって複雑な評価基準を学習可能なアンサンブル学習の代表的な手法である、ブースティングを用いて、胚培養士の精子評価・選択基準を学習させました。

アンサンブル(Ensemble)といえば合奏や合唱を意味しますが、機械学習においてのアンサンブル学習(Ensemble Learning)は、複数のモデル(学習器)を融合させて1つの学習モデルを生成する手法です。1人で問題を解くより、複数人で意見を出し合って知識を補い合いながら解く方が正答率が上がるのと考え方は同じです。その中でもブースティングは、一連の弱い学習機をまとめることで強い学習機を生成できるか?という疑問に基づき、性能の低い学習器の組み合わせにより⾼性能な学習器を作る⼿法です。

④ 生殖医療専門家によるデータの収集と評価

泌尿器科生殖医療専門医、培養士により学習の基礎となるデータや基準となる判断結果が収集され、医学的、実務的な立場からのフィードバック・評価を得て精度を高めていったとのこと。

システム導入後

良好精子判別の補助を機械で行い(今回はAIを利用して)結果を画面に表示させることで、短時間の間に顕微受精に適した精子を探索することができるようになりました。また、胚培養士間・施設間の技術格差が軽減され、 若手培養士・経験の浅い培養士でも選別が可能になります。使用用途として、AIによる良好精子の比率からの受精成功予測や、男性不妊のバイオマーカー開発などにも応用可能だそうです。