スマホのカメラがセカンドオピニオンに。 顔だけで遺伝子性疾患を推定可能に

1月7日にMedicine誌にて発表された論文で “Face2Gene” というスマートフォンアプリの現状と問題点についての研究が発表されました。同アプリは機械学習アルゴリズムなどを活用して、先天性の神経発達障害を持つかどうかを顔写真で特定しようというもの。医師はこの技術にのみ頼ることはありませんが、セカンドオピニオンとして活用することを想定しています。

神経発達障害を持つかどうかをスマホアプリで特定

FDNA社のチーフテクノロジオフィサーであるYaron Gurovichが率いる研究者たちは、216種類にも及ぶ症候群と診断された症例画像17,000枚以上をアルゴリズムに学習させました。新しい人の顔画像が表示されたとき、アプリの診断推測は約65%のケースで正しいものでした。また、複数の予測を検討した場合は約90%の精度だったとのことです。

FDNAは、新しい遺伝的変種を選別し、そしてその治療を助けるためにこの技術を開発したとのこと。現在このFace2Geneのアプリは医療専門家に無料で利用可能であり、その多くはめったに見られない遺伝性疾患を診断するための一種のセカンドオピニオンとして活用されています。

例えば、FDNAの最高医療責任者でもあるグリップ氏は、このアルゴリズムをウィデマンスタイナー症候群少女の診断に役立てました。少女は4歳にもかかわらず、ほとんどの乳歯を失い、永久歯がすでに生えてるという以外は、特に際立った身体的特徴は見受けられませんでした。

グリップ氏は、遺伝子の突然変異によって引き起こされる小児における早期の歯の成長を説明する症例報告を読み、少女がウィデマンスタイナー症候群という遺伝性疾患ではないかと推測。そして診断への自信を高めるために、この少女の写真をFace2Geneにアップロードしました。するとウィデマンスタイナー症候群がトップヒットの1つとして登場しました。

その後、標的DNA検査で少女の疾患を確認。AIのアプローチが可能性を絞り込むのに役立ち、より高価な多遺伝子パネル検査のコストを節約できました。

生活にじわりと馴染む「顔認証」

モバイルやPCといった個人のデバイスのみならず、公共の空間にも顔認証の技術は少しずつ私達の日常へ姿を見せています。

中国では「紙の取りすぎ」を防止すべく公衆トイレに顔認証が。ロンドンの市街地でも防犯目的での顔認証を試験運用中。国内ではセブンイレブンが2019年秋に顔認証対応のATMの導入を検討しているほか、NTTドコモがMECを活用した顔認証システムを試用中。帯域を最適化することでより円滑なサービスの提供を目指しています。官民を問わずして各国各社が顔認証テクノロジーの実用に意欲的です。

精度に伸び代はあるが……

現状では顔認証による診断精度は、残念ながら100%とは言えません。「Face2Geneのダウン症候群に対する認識率は、ベルギーの白人の子供たちの間で80%でしたが、黒人のコンゴの子供たちではわずか37%」とのこと。民族的な偏りが発生する可能性があるのが大きな課題。しかしこのアルゴリズム精度はインプットするデータを広く厚くすれば問題なく向上していくと示されています。

米国国立ヒトゲノム研究所の臨床遺伝学者であるPaul Kruszkaは少なくとも小児科医や遺伝子学者は今後このテクノロジーを幅広く活用することになると予測。「まるでGoogle かのように」「聴診器と同じように」この顔認証技術を当然のツールとして使用するだろうと明言しています。専門性の敷居が低くなり、医療費が低くなれば今後さまざまな患者にとって望ましい世界が拓けてくるかもしれません。

懸念される「サイロ化」とは?

問題は認証技術の心臓となるデータが「サイロ化」されてしまうことです。民族的な偏りが残ったデータでサイロ化(縦割り構造)されてしまうことだけは避けなくてはいけません。

英オックスフォード大の計算生物学者, Christoffer Nellåker氏は問題点についても指摘。研究者と企業が共同で、恣意的なデータの商品として扱いサイロ化する可能性があることを懸念しています。

先に述べました2017年のダウン症検査の例では白人と黒人では認識率が80%と37%も差が開きました。ーー43ポイント, 2.1倍以上の大きな差異です。この違いが「民族に由来するもの」であれば、倫理上ほんの些細な小数点以下の誤差でさえも放置するべきではありません。

医療がより「民間」に依存する?

最新技術により生活が豊かになることは喜ばしいことですが、医療となれば慎重になる必要があります。

「誰にでも適切な医療を」という考えと、それに立脚する制度が20世紀より脈々と続いてきました。医療は公共のものであることが望ましいということですね。国民保険システムや、公立病院を可能な限り整備することが国や自治体に求められています。

実際に先進国各国における公費の負担額は平均して約60%ほど。アメリカは医療格差が非常に大きく「アメリカ旅行中に事故に遭ったり風邪を引くと多額の借金を負ってしまうことに……」なんて笑えない笑い話もあります。これに歯止めをかけようとしたのが2010年に成立した通称オバマケア。医療は公的サービスであるべきという考えが世界の声でしょう。(その後に州ごとにひっくり返されたりしているものの……)

このように医療には「公」の側面が強く認められていることは自明です。しかしながらテクノロジーを礎とする医療を推し進めることは、前述の論文でも指摘するように「民間」への依存度が高まることは避けられません。聴診器やレントゲンなどといったこれまでの科学とは違い、製作過程次第でバイアスがかかってしまう可能性のあるソフトウェアのツールだからこそ、その実用には事前の熟慮が不可欠ではないでしょうか。

ライター:川合裕之
AI, IoTライター。新たな技術が如何に社会や日常に接続されるのか?をテーマに日々勉強中。人間でなくても出来ることを追求することで、逆説的になにが私達を人間たらしめているのかを考えます。アメリカ映画を中心にカルチャー系の記事も多数執筆。
関西学院大学文学部卒。

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