アルツハイマー病の診断を予測する深層学習モデル。6年早く正確に予測する事が可能
世界で数千万人を悩ませているアルツハイマー病は、早期に見つけることがとても難しい病気の一つです。カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)放射線医学画像診断学科の研究者たちは、脳のスキャン画像を用いてニューラルネットワークのトレーニングを行い、アルツハイマー病の早期診断に成功しました。平均で6年早く正確に予測する事が可能だとの事です。さらにその精度は98%であったというから驚きです
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アルツハイマー治療には早期発見が最重要
アルツハイマー病は高齢者における認知症の最大の原因といわれる進行性の脳疾患で、記憶や思考能力に徐々に障害が現れ、最終的には日常的な簡単な作業もできなくなるといわれています。
原因の一つは脳に蓄積するアミロイドβというタンパク質とされており、沈着したタンパク質の影響でやがて脳の神経細胞が変化して機能しなくなります。
アルツハイマー病に対し根本的な治療法は現時点では確立されていませんが、近年、有望な薬も開発され始めており、病状の進行を抑えることが可能となりつつあります。
しかし症状が現れてからアルツハイマー病であると診断するのでは脳の萎縮・ダメージが大きすぎます。症状の進行を効果に抑えるためには、病気の過程の早い段階で対策しなければなりません。
AIとイメージング技術を活用することにより早期発見が可能に
UCSFの研究チームが2018年11月に専門誌「Radiology」に発表した論文によると、人の目では知覚できない微妙な脳の変化をAIに学習させることで、数年後にアルツハイマー病を発病する患者を診断することに成功したとのことです。AIは発症の平均6年前にアルツハイマー病を発見でき、小規模なテストではあるが、98%の精度で診断を行ったとのことです。
アルツハイマー病の診断にAIを用いる試みは他でも行われていますが、UCSFの研究チームではこれまで学習に用いられてこなかったバイオマーカーに着目しました。アルツハイマー病研究を進めているアルツハイマー病神経のデータセットに含まれる、1000名の患者から得られた2000例のFDG-PET画像を使用しました。FDG-PETは、FDG(放射性グルコース化合物)を血流内に投与して体組織に取り込ませ、FDGがどれぐらい取り込まれているかに応じて組織の代謝活動を測定できるというイメージング技術です。これを使用すると、アルツハイマー病の脳に起こる代謝のわずかな変化を捉えることができます。
データセットの90%で深部学習アルゴリズムをトレーニングし、残り10%でテストを行った結果、アルゴリズムはアルツハイマー病に対応する代謝パターンを学習しました。
上記がFDG-PET画像の一例です。Aはアルツハイマー病の76歳の男性の画像、Bは軽度認識障害の83歳の女性の画像、Cはどちらでもない80歳の男性の画像で、AはCに比べてやや灰色に見えますがその一方で、BとCを肉眼で見分けることは困難でしょう。
この学習を経て、患者40名の2006年から2016年の間のスキャンデータを検査した結果、アルゴリズムは精度98%でアルツハイマー病を見つけることに成功し、さらに「アルツハイマー病ではない」という診断も82%の精度で下せたとのこと。医師による最終診断よりも平均で6年早く、アルツハイマー病を検出できたそうです。
研究チームは今回の研究の対象は小規模なものであり、さらなる研究が必要であると断りを入れつつ、早期に発見することで病気の進行を遅らせたり食い止めたりするためのより良い方法を見つけられる可能性があると語りました。
なお、FDG-PETをAIを用いて分析することでアルツハイマー病の早期予測が可能になるのであれば、βアミロイド斑やタウタンパク質を用いた手法でも、別の何らかの予測が可能であることを研究チームは語ります。
高齢化が進む日本において、認知症は大きな社会問題の一つです。厚労省より、65歳以上の認知症高齢者数と有病率の将来推計についてみたところ、2012年は認知症高齢者数が462万人と、65歳以上の高齢者の約7人に1人(有病率15.0%)であったが、2025年には約5人に1人になるとの推計もあるとのこと。
アルツハイマー病を早期治療することが可能になれば、患者本人のみならず、家族や医療・介護関係者も大いに救われることでしょう。
研究の進展に、世界中から大きな期待が集まっています。
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